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第45話 『美しくも束縛する者、ローゼズ・ウイップ』

「はい、不測の事態に備えて警護に向いた部屋に引っ越して欲しいのです」


「トールと離ればなれになるなら、断固拒否します」


 エリカが即座に言った。


「もちろんお二人一緒での引っ越しですわよ。それにかかる費用や家賃などはもちろん日本政府が持ちますのでご安心ください」


「ならオッケーです、バンバン進めてもらってオッケーです」


「すげぇ変わり身の早さだな、おい……。あと俺はあんまり引っ越したくないかなぁって。引っ越しって結構面倒だから。それに不測の事態ってのは例えばなんなんだよ?」


「実は――」


 ヒナギクさんが何ごとか言いかけた時だった。

 ピンポーン。

 うちのインターホンが軽やかに鳴った。


 時計を見てみると朝の6時半を指している。

 ヒナギクさんは朝5時に来たから、いつの間にか1時間半ほど話していたことになる。


 まだ人の家を尋ねるには早すぎる時間だけど、朝5時に来るほど非常識ではない。

 今日は平日だから、普通の成人男性なら仕事のために起きてても全然不思議じゃないしな。


「悪い、来客だ。すぐ戻るからちょっと待っててくれ」


 俺は立ち上がると玄関に向かった。


「こんな朝早くから来客だなんて、妙ですわね?」


 しかしヒナギクさんが眉をひそめながらつぶやいた。


「いやいや、なに言ってるんですか。その1時間半も前に来たヒナギクさんが言っちゃだめでしょ」


 玄関に向かいながら軽く振り返った俺は、そんなヒナギクさんに苦笑気味のツッコミを入れたんだけど、


「もしや――! いけませんわトールさん、ドアを開けないで! いえ、すぐにドアから離れてください!」


 ヒナギクさんがハッとしたように言って立ち上がった。


「え?」


 しかし俺はもう玄関のすぐ前まで行っていて――、


 バン!!


 突然大きな音がしたかと思うと、ドアが外から強く押されて無理やり開かれ、びっくりした俺は後ずさろうとして無様に尻餅をついてしまった。


「な、なんだいきなり!? ガス管でも爆発したのか!? まさかテロ!?」


 尻餅をついた俺の目の前で、本来は外開きのはずの玄関のドアが強引に内向きに開いており、壊れた金属製の蝶番(ちょうつがい)がプラプラと揺れている。


 突然のことに気が動転している俺の前には、全身黒ずくめのいかにも怪しい風体の男たちがいて――。


(まさかこれって今度こそ、エリカを拉致しに来た奴らかよ!!)


 俺は慌てて立ち上がろうとしたものの、急すぎる展開にびっくりして腰が抜けてしまっていた情けない俺は、立ち上がることすら出来ずに男たちをただただ見上げてしまう。


「教祖様がいらしたぞ、すぐに確保しろ!」


 そしてリーダー役と思しき奴の一言で、黒ずくめの男たちが一斉に群がった――俺に向かって。


「えっ、俺!? なんで!?」


 腰を抜かした俺は黒ずくめの男たちに簡単に担ぎ上げられてしまい、そのままどこかに連れ去られかけて――、


「そうはさせませんわ! 行きなさい、『美しくも束縛する者、ローゼズ・ウイップ』!」


 しかしヒナギクさんの凛々しい声が響き渡ったかと思うと、ヒナギクさんの右手から薔薇のツタがブワッと広がって、黒ずくめの男たちの手足に一瞬にして巻き付いた。


「こ、今度は何が起こったんだよ!?」


 俺が状況を理解しきる間もなく、総勢7名の黒ずくめの男たちはヒナギクさんの『美しくも束縛する者、ローゼズ・ウイップ』なる必殺技(?)によって、一瞬で拘束されて無力化された。


「ヒナギクさんすげぇ……! そうか、今のってもしかして――」


「はい、わたくしがかつて女神学院での厳しい修行によって習得した特殊能力――『美しくも束縛する者、ローゼズ・ウイップ』ですわ。薔薇のツタのごときムチを自在に操る、近接戦闘向きの攻防一体の特殊能力ですの」


「やっぱり、エリカの『運命を偽る者、デスティニー・フェイカー』と同じ特殊能力だったか!」


 しかも黒ずくめの男たちを一瞬で制圧してしまう、ものすごく強い特殊能力だ!


「ほぅほぅ、なかなかやりますねヒナギクさん」


「なんでエリカはそんなに上から目線なんだよ……。しかもあんまり役に立たないって自分でも言ってたエリカの『運命を偽る者、デスティニー・フェイカー』と違って、こっちはかなりガチで実戦レベルなんだが……」


「よそはよそ、うちはうちですよ。わたしがわたしらしくあるためには、他人との比較なんぞに一喜一憂してはいけないんです。ナンバーワンより、オンリーワン。わたしという人間はわたししかいないんですから」


「またそういう心理カウンセラーみたいな含蓄あるセリフを、さらっと言ってくるし……」


「打てば響くとはきっと、わたしのような人のことを言うのでしょうね。どうぞ好きなだけ褒めて下さい。わたしはトールに褒められて伸びるタイプですので」


「俺限定なのかよ」


「それはもちろん、わたしは身も心もトールに捧げると心に誓っておりますので」


「まったく、そういうところも含めてほんとエリカはエリカらしいよ」


 言動がやや常軌を逸する時があるだけで、基本的にエリカも超がつくエリート才女なんだよな。

 本当にしっかりとした自分を持っているんだ。


 30過ぎても確固たる自分すら持っていない、流されてこの年まで来た俺とは大違いだよな。


(はぁ……今の自分があるのは全部自分のせいだとはいえ、エリカとかヒナギクさんの人生充実感を目の当たりにさせられて、ちょっと悲しくなってきちゃったよ……)


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