第42話 戸籍とかそういう日本のシステム
「昨日の夕方にエリカさんから法務省に速達が届きましたの。そしてそこには女神さまの直筆で『なにとぞよろしく頼みます』と書いてあったのですわ。そして法務省外局難民審査庁難民審査局異世界召喚課特命担当官であるわたくしに、スクランブルがかかったというわけです」
「え? ってことはもしかして、昨日エリカが出してた速達って異世界にじゃなくて法務省に出してたのか?」
「はい、そうですよ」
逃げろって言ったのに、結局部屋から逃げることもなく、そして今とてとてと玄関までやってきたエリカがのほほーんと言った。
「あのな、そうならそう言えよな。俺はてっきり異世界の女神さまにでも手紙を送ったもんだとばかり思ってたぞ」
「そんな、まさかトールが異世界に郵便を出したと思っているなんて、さすがに思いませんよ。だって普通に考えて、異世界に郵便が届くわけないじゃないですか」
「……」
そりゃね?
冷静に考えればそれは確かにそうなんだけどね?
あの時の色々とびっくりさせられていた俺は『郵便って異世界に届くんだ、すげぇ!』って素直に思ったんだよ!
異世界から女の子が召喚されるなら、手紙だって異世界に行くくらいはありえるよなって思ったんだよ!
うっせぇわ!(涙)
「むふふ、トールのそういう純粋でロマンチックなところ、わたしはすごく好きですよ」
地母神のごとき優しい笑顔のエリカに、肩をポンポンと叩かれて慰められる俺だった。
「そういうわけで、エリカさんに日本国の戸籍を用意したり安全に生活していけるようにと、要するに日本での生活に困らない様にいろいろ面倒を見るべく、わたくしが派遣されてきたというわけですの」
ヒナギクさんが、なんやかんやでここまでの話を総括するみたいな感じで言った。
「ああ、うん、とりあえず分かったよ。よーく分かった。そうだよな、戸籍は絶対いるもんな」
「コセキ、こせき……はっ! 戸籍、知っています! この日本なる国は戸籍という単位が国民に割り振られ、それによって国民1人1人が完全に管理させれているのだと習いました! ものすごい管理社会だと思います!」
異世界で予習してきた日本知識にピキーンと引っかかったのか、エリカがまたちょっとずれたことを言い出した。
「いや戸籍は確かに全国民に割り振られてるんだけど、どちらかというと日本は管理社会とは正反対の国だよ」
「あれ? そうなんですか? たしかテンノーなるごく少数の皇帝の一族が、1億2千万人もの国民を戸籍によって管理支配している大帝国だと習ったのですが」
「なに言ってんだ、俺も生まれてから30年以上経つけど日本はそんな国じゃないよ。世界を見渡してもトップクラスに自由な国だと思う」
逆に自由過ぎて他国から問題視されるくらいに。
最近日本のアニメの表現の自由さに対して色々とうるさいんだよなぁ。
「そうなんですね。日本国憲法の第一章が国民ではなくテンノーであることがその理由だと、学院で先生が熱弁されていたのですが」
「なるほど、他所の人間が日本を学ぶとそんな風に見えるのか……でも天皇制はあくまで象徴だし、戸籍も日常生活では特に意味はない制度かな」
「なんとそうでしたか! さすがトールは物知りですね。勉強になります!」
どこから取り出したのか、メモ帳にエリカが書き込み始める。
この態度を見る限り、俺に知識マウントを取らせるために知らない振りをしたわけでなく、本当に知らなかったんだろう。
基本的に真面目なエリカなのだ。
「俺に限らず、日本国民はほとんどみんなそう思ってると思うぞ。で、話を戻すんだけど、ヒナギクさんはなんでそんな恰好をしてるんだ?」
俺は再びヒナギクさんに視線を戻して問うた。
「それはもちろん遊佐トール、これがわたくしが元居た世界の学院の正装だからですわ」
「元居た世界……? ってまさか――」
「はい、エリカさん同様にわたくしもまた、異世界から召喚された人間ですから」
「え――っ」
ヒナギクさんも異世界召喚された人間だって!?
「そうですね。かれこれ10年前になるでしょうか。当時は右も左も分からずに苦労しましたが、今はこうして同じように異世界召喚された方々をお手伝いする仕事をしているというわけですの」
「はっ! そう言えば聞いたことがあります! 西園寺ヒナギク……たしか10年前に若干15歳で異世界転移したという大先輩です! 金髪碧眼で、しかも当時は転生・転移学院の制服はメイド服だったそうです! 善き淑女たるにはまず奉仕の精神から、とかそんな感じの理由で。間違いありません、この人です!」
「なんか全く俺に関係ないところで、綺麗に話が繋がったみたいだな……」
つまり全部俺の空回りだったってことか、はぁ……。
(いやここは、拉致されてしまう可哀そうな異世界転移者はいなかったんだとプラスに考えておくべきだろう)
エリカが無事でよかったよ。
その後、部屋にあがってもらったヒナギクさんを交えて、3人での話し合いが始まった。




