第41話 「法務省だかなんだか知らないけど、エリカを連れていくってんならここは通さねーぞ!(キリッ」
「おいおい、それじゃ理由になってないだろ。俺が聞きたいのは、昨日の今日でなんで国がもうエリカが召喚されたことをばっちり把握してるのかって事だ」
そうだ、さすがに情報が速すぎる。
いやもう速いってレベルですらないだろ。
事前に連絡でも行っていない限りありえない。
事ここに至ってはもしかして俺の部屋が監視されてたりとか、そんな普通ではあり得ない可能性まで考えないといけないレベルだった。
しかも目的はエリカ、異世界からの訪問者ときた。
となれば最悪拘束されて人体実験、なんてこともあることもあるかもしれない。
恐ろしい推測だが、決して無いわけじゃないだろう。
そしてまだ会ったばかりとはいえ、異世界召喚されただけの普通の女の子――異世界召喚された時点で普通じゃないんだろうけど――とにかく、この世界に来たばかりの女の子をそんな目に合わせるわけにはいかない。
30代で無職になった惨めな童貞の俺だってそれくらいは分かるんだ。
だったら俺のやるべきことは決まってるよな!
「法務省だかなんだか知らないけど、エリカを連れていくってんならここは通さねーぞ!」
覚悟を決めた俺はキリッとそう強く宣言すると、睨みつけるようにヒナギクさんを見据えた――!
「うーん、何か勘違いをされているようですね。わたくしは法務省外局難民審査庁難民審査局異世界召喚課特命担当官です」
「さっきも聞いたよ。でもそれがどうしたってんだ?」
「つまりわたくしは異世界召喚が起こった時に、その召喚された方をサポートするためのお仕事をしているんですのよ」
…………え? 今なんて?
「え、異世界召喚された人のサポート……?」
「はい」
「日本政府の指示を受けて、異世界から来たエリカを拉致しようとしてるんじゃなくて?」
「拉致はれっきとした犯罪ですわ。こう見えてわたくしは法務省の人間です、国民的アニメの最終回を録画したら何故か武蔵丸が映っていてムシャクシャしたとしても、犯罪だけは致しません」
ヒナギクさんが男が見たら100人が100人胸キュンするような満面の笑みで頷いた。
なんとなくだけど、どうも嘘は言っていないようだ。
「っていうか通称『武蔵丸の悲劇』を知っているとか、あんたもエリカに負けず劣らず日本文化について詳しいな!?」
金髪碧眼の外見からは想像もつかない程に日本語が堪能だし。
まあそれは今はいいや。
「もちろんしっかりと勉強しておりますので」
俺のツッコミに対して、優雅にほほ笑んで返すヒナギクさん。
実に絵になっている。
こんな状況じゃなかったら一目ぼれすること間違いなしだ。
もちろん熟練かつ狡猾な詐欺師は人間心理のスペシャリストであり、素人がその嘘を見抜くのはほぼ不可能と言われている。
でも法務省のなんとかっていう漢字ばっかりのいかにもな部署だったり、昨日の今日でもう異世界召喚のことを知っているということを加味すれば、とりあえず信じてみる価値は高いんじゃないかって気にはなっていた俺だった。
しかしそれは同時にもう一つの疑問を生じさせる。
「じゃあどうやって異世界召喚されたってことを知ったんだよ?」
昨日起こったばかりのことを――当の本人な俺ですら昨日の朝起きて把握したことを――完全に知り得た上で、こんなアプローチまでかけてくるだなんて、さすがに手際が良すぎるからな。
どんな裏があるのやら、分かったもんじゃない。
さて、これにどう答えるか。
禁則事項なので答えられないというテンプレ返答をするのか、それとも腹を割ってその秘密を話してくれるのか。
悪いがどんな態度を取るかで最終判断をさせてもらうぞ。
本心を明かせないというのなら悪いがここで帰ってもらう。
仮に本心じゃなくても、少なくとも俺が納得のできる回答を得られなければ、信頼関係なんてものはなりたたないからな。
さあ、どう出る?
俺を納得させてみせろ――!
お前の実力を見定めてやるぜ系ライバルキャラのごとく、内心そんな風に考えていた俺にヒナギクさんは──、
「知った理由はもちろん連絡があったからですわ」
特に気負った様子もなくさらっと答えた。
「連絡って……誰から?」
「当然エリカさんご本人からですわ」
「…………はい?」
余りに斜め上な想定外すぎる回答に、俺はぽかーんと口を開けて固まってしまった。




