第40話 法務省外局難民審査庁難民審査局異世界召喚課特命担当官・西園寺ヒナギク
「わたくしの方が年下ですので、ヒナギクでよろしいですわよ。わたしもトールさんと呼ばせていただきますわ」
「じゃあ俺もヒナギクさんで」
「『さん』もいりませんわよ? わたくしのほうが年下ですし」
「いや『さん付け』はマストで必要だから。ここは俺的には譲れない絶対防衛ラインなんだ」
「はぁ、そうなのですか」
金髪メイドお姉さん=ヒナギクさんはちょっとよく分からなさそうな顔で頷いた。
「それであの、えっと、法務省ってことはヒナギクさんはその、こ、こ、ここ、国家公務員なんだよな?」
その職業を呼称しようとして、俺はついどもってしまった。
だ、だって国家公務員だよ!?
勤め先が倒産して30代無職童貞になった俺とは正反対の、親方日の丸で絶対に倒産しない、どこに出しても恥ずかしくない最強の身分にして最強の勝ち組。
それが国家公務員なんだよ!?
街コンとかで『俺、国家公務員なんだけど』って軽く言っただけで婚活女子が次々とアプローチしてくる(らしい@ネット情報)最強ステータスの1つなんだよ!?
すごい。
羨ましい。
憧れる。
いいなぁ。
であるからして、俺がヒナギクさんと「さん付け」で呼ぶのもこれまた当然のことであった。
もちろん俺の知り合いに国家公務員というスーパーステータス持ちはいない。
ヒナギクさんが正真正銘、俺の初めての人である。
「まぁいきなりこんなこと言われても信じられませんわよね。お気持ちはお察しいたます」
「俺が疑念を抱くのはそっちもある程度織り込み済みってか」
「ですがわたくしの素性でしたら、今すぐに法務省に問い合わせていただいても構いませんわ。名刺のここのところがわたくしの所属する部署の住所と電話番号になりますので」
ヒナギクさんは俺が受け取った名刺を覗き込みながら指差しして教えてくれた。
距離がグッと縮まったことでヒナギクさんのふんわり柔らかそうな髪が俺の頬をかすめ、さらにしっとりと甘くていい匂いまで漂ってくる。
指もちょっと触れちゃったし、ぶっちゃけ30過ぎの童貞にはかなり刺激が強いです!
ただでさえ国家公務員という最強の肩書に、ひれ伏す寸前だっていうのに。
(耐えろ、耐えるんだ俺! ここは強く心を持つんだ! 全然ちっとも何でもない風を装うんだ!)
「あ、これね。ふへー、それにしても長い肩書だなぁ。聞いても全然分からなかったし、なんか漢字がずらっと並んでて見ているだけで気圧されそうなんだけど……」
「法務省外局難民審査庁難民審査局異世界召喚課特命担当官ですわ。なかなかカッコが良いでしょう? 実は結構気に入っておりますの」
包容力のある年上のお姉さん力全開でふんわりと優しそうに、だけどちょっと自慢げに微笑むヒナギクさん。
率直に言って可愛かった。
だめだ、必死に感情をコントロールしようと思っているのに、大きく開いた胸元ととかあれこれ色んな所に、どうしようもなく女性を感じてしまう……!
「確かに強くてカッコよくはあるかな――じゃなくてだな! なんでその法務省の人が、ミニスカメイド服を着て、うちに不法侵入しようとしてるんだよ?」
しかし俺は昨日の夜のエリカの寂しそうな姿を思い出してもう一度心を奮い立たせると、泣いて馬謖を斬る思いで必死に煩悩を追いやって思考を戻した。
(そうだ、思い出せ、俺だけがエリカを守れるんだってことを! 俺がやらずに誰がやる!)
「それはもちろん異世界召喚が行われて、この部屋に異世界からの来訪者がいるからですわ」
「や、やっぱりエリカのことを知っているのきゃ!」
さらっと核心に踏み込まれてしまった俺は、もう完全に動揺が隠しきれないでいた。
最後「知っているのか」と言おうとして「知っているのきゃ」って言っちゃったよ。
超恥ずかしい。
「それはもちろん知っておりますわ。法務省外局難民審査庁難民審査局異世界召喚課特命担当官ですもの」
しかしヒナギクさんは、俺の噛み噛みの情けない発言をさらっとスルーして流してくれた。
すごく優しいね、うん。
さすが国家公務員だ。




