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第39話 それを持ち出されると俺もちょっと痛い……

「ちょ、ちょっと! 勝手に入られたら困るんだけど。住居不法侵入だろ?」


 人の家に勝手に入ることは、もちろん刑法に定められたれっきとした犯罪だ。


 慌ててとっさに両手を広げ、金髪メイドお姉さんの進路を身体全体でブロックする俺に対して、


「あら、じゃあお聞きしますけど、1人用の賃貸に大家の同意もなくこっそり女の子を同居させるのは問題ないのかしら?」


 金髪メイドお姉さんは極上の笑みを浮かべながらそんなセリフを言いやがったのだ。


「な、なな、なんでそれを? き、君はいったい――」


 大家に内緒で女の子と同棲するという、大変痛いところを突かれてしまって一瞬でしどろもどろになる俺。


 なぜなら、いわゆる正当な退去事由に相当してしまうからだ。

 この部屋は1人用賃貸物件なので、他人を長期にわたって住まわせることは完全な契約違反になる。


(いや今は俺が契約違反したかどうかなんてことはどうでもいい! それよりもなによりも、この金髪メイドお姉さんが、エリカの存在を知っていることのほうが重要だろ!)


 俺のことだけじゃなく、昨日この世界に来たばかりのエリカのことを知ってるとか、どう考えても悪い予感しかしないからな!


 しかも間が悪いことに、


「トール、まだ不逞の輩とお話し中なんですか?」


 いつまでたっても玄関で話をしているままの俺にしびれを切らしたのか、エリカが玄関にやってこようとしていたのだ。


 つまりここまでの状況をざっくりと整理するに、この金髪メイドお姉さんの目的は異世界から来たエリカってことだよな!?


 異世界人であるエリカを拉致しようってか!?

 モルモットみたいにエリカを研究対象にでもしようってのかよ!


(くっ! エリカはこの世界に頼れる人間が俺しかいないんだ。だから俺がエリカを守ってやらないといけないんだ!)


「エリカ、こっちに来るんじゃない! 今すぐ逃げろ! 昨日教えたよな、ベランダに火事とかの緊急時用の非常階段があるから、とりあえずすぐにここから離れるんだ! ここにいたら拉致されるぞ!」


 俺は金髪メイドお姉さんの前に両手を広げて立ち塞がったままで、まだ部屋にいるエリカに背中越しに叫ぶように呼び掛けた。


 それを見た金髪メイドお姉さんが「おや?」という顔をする。


「あら、わたくしとしたことがこれは大変失礼をいたしましたわ。自己紹介がまだだったせいで、いらぬ勘違いをさせてしまったようですわね」


 必死にエリカを守ろうと主人公ムーブしている俺を尻目に、優雅に言ったそう言った金髪メイドお姉さんは、腰のポーチから名刺入れを取り出すと、


「初めまして遊佐トールさん。わたくしは法務省外局難民審査庁難民審査局異世界召喚課特命担当官の西園寺ヒナギクと申します。これからどうぞよろしくお願いいたしますわ」


 丁寧に両手で名刺を差し出しながらぺこりと頭を下げた。


「あ、これはこれはご丁寧にどうも。お名刺頂戴いたします……じゃねーよ! 俺はなにを呑気に名刺を受け取ってんだよ! 悪いがエリカは渡さないぞ! 法務省――えっと、なんだっけ?」


 この間まで社会人をやっていた習性で、半ば本能的に両手でお名刺を頂戴してから、俺は自分にノリツッコミを入れると、頭を再び危機管理モードに切り替えた。


「法務省外局難民審査庁難民審査局異世界召喚課特命担当官の西園寺ヒナギクです」


 しかし2度聞いても俺のアホな頭ではその長すぎる肩書きは理解できなかった。


「法務省…………の西園寺さん」


 俺は早々と理解を諦めてポイントだけを抑えて会話することにした。



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