第32話 回るお寿司
「ついに来ました! ここが回るお寿司屋さんなんですね!」
ハイテンションなエリカを引き連れながら俺は予約席へと向かった。
おしぼりで手を拭くと、
「これを自由に取っていいんですよね?」
早速エリカが、流れるお寿司のレーンを見ながらワクワクを隠しもせずに言ってくる。
「そうだぞ、好きなのを取ればいい」
「では行きます! まずは――コハダです!」
「一発目コハダとかお前完全に寿司ガチ勢だろ……」
「それはもちろんしっかりと予習してきましたから。通はまずコハダから行くんですよね?」
「らしいな。寿司職人さんの色んな技術が試されるネタだって、テレビでやってたのを見たことがあるよ」
「はふぅ、絶妙に引き出された旨味が美味しいです……」
「ははっ、そりゃ良かったな」
「プロが作ったお寿司を食べるのは初めてなので、お寿司を食べるなら絶対にコハダからと決めていたんですよ。また夢がかないました。ありがとうございましたトール」
エリカがそれはもう満足って笑顔で微笑んだ。
「あれ? その言い方だと、向こうの世界――基幹世界『ディ・マリア』だっけ? そこでプロじゃない人が作った寿司は食べたことがあったのか? っていうか寿司があるのか?」
「いえ『ディ・マリア』にお寿司はありません。女神学院の調理実習で自分たちで作って食べたことがあるんです。あんまり上手には出来ませんでしたけど」
「調理実習で自分たちで寿司を実際に作ってみるとか、マジで本格的に日本文化の予習をしてきてるんだな……今すごくリアルに理解できた気がする」
ちなみに俺は寿司を握ったことなんて一度もない。
過去に1回くらい、ちらし寿司の元を買ってきてご飯と混ぜたことがあるくらいで。
俺はしっかりと勉強してきているエリカに大いに感心しながら、ちょうど目の前を流れてきた鯛とマグロを一皿ずつ取った。
そのまま鯛の握りにハムっと噛みつく。
「なっ! いきなり鯛を食べるなんて! トールは素人ですか!?」
そんな俺の行動を見たエリカが色めき立った。
「あー、俺は酢締めの魚ってあんまり好きじゃないんだよな。やっぱ寿司は鯛とマグロだろ」
「なんと……すいちょうけん」
「お前ほんと守備範囲広いよな!? マジで!」
なにより新時代「令和」に、既に前世紀となった20世紀末を舞台にした「北斗の拳」でボケる勇気がすごい!
俺には無理だ!
さすが寿司の調理実習とかしてきてるだけのことはあるな!
…………
……
その後は主にタブレットで注文することにした。
「まさか自分専用のお寿司が回ってくるなんて! これは習っていませんでした! すごいです!」
専用レーンを使って高速で運ばれてくる寿司を見てエリカは大興奮だった。
さらには、
「当たってください! ていっ! やりました、当たりですよ!」
空いたお皿を入れることで遊べるガチャの結果に一喜一憂するエリカ。
そんなこんなで楽しく回るお寿司を堪能した俺たちだった。
家への帰り道、エリカがガチャで手に入れたプイプイなモルモットのマスコットチェーンを2つ、目の前にぶら下げてプイプイさせながらニマニマと笑っている。
初めての回るお寿司はよほど楽しかったようだ。
「楽しんでくれたみたいでなによりだな。でも残念、ガチャはダブっちゃったな」
「当たって一喜し、ダブって一憂するのもまたガチャの楽しみの一つと習っております」
「ほんとハイレベルな文化理解してるよな。明らかに一般日本人以上に日本人してるぞ。もはや感動すらするレベルなんだが」
「ネイティブ日本人のトールにそう言ってもらえると、勉強してきたかいがありましたね。では今日の記念にダブった片方の子はトールに進呈します」
「なんだ、せっかく当たったのに俺にくれるのか?」
「2つ同じものを持っていても仕方ありませんからね。それならトールとペアルック、ならぬペアモルモットです」
「ペアモルモットとか言われても正直コメントに困るんだが……」
「女の子という生き物は、好きな相手となんでも共有したいものなんですよ」
「そんなもんか」
「そんなもんです。ではどうぞ」
「ありがとエリカ。実を言うと、女の子からもらった初めてのプレゼントなんだ。大切にするよ」
「寂しい人生だったんですね……ほろり。でもどうぞご安心を、これからは妻であるわたしがトールの傷ついた心も身体も、しっぽり包み込んで癒して差し上げますので」
「だからちゃっかり既成事実化するなっての……」
ま、エリカがこんなにも嬉しそうなんだから、とりあえず来て良かったかな。
「ちなみに略してペアモルです」
「さすがにそれは意味が分かんねーよ……まるでプレモル(ザ・プレミアム・モルツ)の派生製品みたいじゃねーか」
「長い言葉はとりあえず3文字か4文字で略そうとするのが日本式なのでは? 種デスとかストフリとかインジャとか。便利な文化ですよね」
「ほんと日本文化について詳しいなぁ……」




