第29話 パソコンでブラジル
その後、ドライヤー売り場から出る時に通ったテレビ・パソコンなどの電子機器売り場では、
「すごいです! テレビがいっぱいです!」
エリカが驚きで目を輝かせていた。
「えっと、さっきキャッシュカードの口座を確認した時にも言ったと思うけど、これはテレビじゃなくてパソコンって言うんだ」
「はっ! そうでした! カードの残高が見れるパソコンです!」
「いや正確にはカードの残高が見れる機械じゃないんだ。カードを見れるのは無数にある機能の一つで、一番の機能はやっぱりインターネットっていう特殊なネットワークを通じて、地球の裏側であってもリアルタイムで即座に情報を得ることができることだな」
説明しながら俺は店頭のパソコンでニュースサイトにアクセスすると、ブラジルの大統領の発言が物議をかもしている今日付けのニュースを開いて見せてあげた。
「ブラジル、知っています! 日本のちょうど裏側にある広い国で、親日国の1つです! ペレやジーコを産んだサッカー大国でもあります!」
「そうなんだけど、ほんと詳しいなお前!?」
「すごいです! パソコンがあれば、その地球の反対側にあるブラジルのニュースであってもすぐに見れるんですね」
「そういうことだな。そうだ、せっかくだしエリカ用のパソコンも買うか?」
「あ、いえその、パソコンはまだちょっとわたしには早いかなと……」
「そうか? 別にそんなことないと思うけど」
「実を申しますと、機械はやや苦手な分野なんですよ」
「そうだったのか。まぁ無理強いするのもなんだしな。じゃあもし欲しくなったら言ってくれ。一緒に買いにこよう。詳しいわけじゃないけど、スペックとかメーカーの最低限のことくらいなら俺でも分かるからさ」
「欲しくなったら言ってくれなんてさらっと女の子に言っちゃうなんて、トールはほんとエロエロ大魔神ですね」
「この会話の流れでそれとか、ほんとブレないよな、お前……」
「お褒めいただき光栄です」
「だから褒めてないっつーの」
…………
……
そんなこんなで丸一日かけてあれこれ見ながら、同居のために必要なものをあらかた買い終えた後、
「あ、大事なものを買い忘れていました。これも買わないとです」
そうい言ってエリカが取ったのは――、
「こ、コンドーム!?」
だった!!
「ちょ、おい! なに買おうとしてんだよ!?」
「なにってコンドームですけど」
「そういう意味じゃなくて、なんでコンドームなんて買おうとしてるのかって聞いたんだよ!」
「ああ、トールは付けない派でしたか。つまりできちゃってもいいってことですね?」
「はぁっ!?」
「もう、口ではなんだかんだ言って、心は既にわたしと結婚したがっているというわけですね? でも最初断った手前今さらそうとは言い出せないから、いっそのこと愛の結晶という既成事実が欲しいというわけですね」
「全然ちげーよ! どんな思考回路してやがるんだ」
「ええっ、我ながら完璧な推理だと思ったんですけど」
「完璧どころか、大穴だらけだっつーの」
だってそうだろ。
コンドームなんて買ったら、もうそういうことするのが当然みたいになっちゃうじゃないか。
エリカは可愛い。
すごく可愛い。
エリートの才女だし、一生二人で遊んで暮らせるだけのお金まで持っている。
しかも俺を好いてくれているときたもんだ。
だから、だからこそ、ダメなんだ。
だってそんなの惨めすぎるだろ。
ああそうか、そう言うことだったのか。
俺はエリカに劣等感を抱いていたんだ。
すべてが揃って輝く人生を送ってきたエリカに、価値のないつまらない人生を送っているパンピーの俺は、鬱々とした劣等感を抱いていたのだ。
ハイスペックな父親に抱いていた感情を、そっくりそのまま隣に並ぶエリカにも向けていてしまったのだ――。
「トール、急に黙ってしまってどうしたんですか?」
「……いや、自分の気持ちにふと気付いちゃってさ」
「つまりわたしを好きってことですね?」
「ほんとポジティブだよなぁエリカは。そこは本当に羨ましいよ」
「おや? 好きであることは否定しないと」
「うぐ……っ」
「ふふっ、トールは少しずつわたしのことを好きになってきてくれているわけですね」
「はいはい、勝手に言ってろ」
「はい、勝手に言ってま~す♪ トールはわたしのことが好き好きでーす。……ま、ですが恋愛に焦りは禁物です。今日のところはこれで良しとしておきましょう」
そして満足げなエリカはするするっとレジに向かうと、本当にコンドームを購入していた。
購入していたんだよ!
ご、ごくり……。
よく知らないんだけど正しい使い方とかあるのかな?
も、もしものためにちょっとだけ調べておこうかな??




