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第28話 魔法のアイテム「ドライヤー」

「とりあえず一番大事な布団は買えたから……次は普段の服とパジャマか」


「それと下着もですね」


「……」


「あ、もしかしてわざと言わないようにしてました?」


「してないよ」


「えっちな下着をつけるわたしを想像しちゃいました?」


「ま、まさかそんな……」


「その割には顔が赤いんですけど?」


「ぐぬ……」


「もう、えっちなトールですね」


「そりゃ想像するだろ!? 童貞の30過ぎの男なら妄想して当たり前だろ!?」


 だから俺は悪くない――と思う。


「まさかここまで開き直られるとは……」


 エリカが頬を赤く染めていた。


「あ、こういう話は意外とそっちも恥ずかしいんだな」


「むっ、失敬な、当然ですよ! トールはわたしのことを何だと思ってたんですか?」


「エロバナオッケーでおっさんをからかう肉食系女子かと」


「わたしは大和撫子な清楚系美少女です」


「自分で美少女とか言ってる時点で既に清楚系じゃないような気がするんだが……あと異世界人だから大和撫子ではないよな?」


「異世界からこの日本に転移した以上は、身も心もトールに捧げると誓いましたので。わたしはもう異世界には帰れませんから、日本人として生きていきます」


「お、重い誓いだな……」


 エロバナが想像以上に重い話になった件に関して……。


「他に歯ブラシなんかの生活用品も必要ではないかと」


「そうだな、そっちの方がぱっと買えそうだし、よし、先に日用品を見て回るか」


「ラジャーであります!」


 歯ブラシやハンガーなんかの純粋に2人分必要になる物なんかを買った後、俺たちは家電コーナーに向かった。


 エリカは髪が長いので、乾かすためのドライヤーを買わないといけないからだ。


 え?

 俺の部屋にはドライヤーもないのかって?


 男の一人暮らしにそんなものあるわけないだろ?

 なんに使うんだよ?


 ドライヤーなんて一人暮らしの男の部屋にあるわけがない。

 電子レンジと炊飯器、洗濯機、ケトルがあればことが足りるのが一般成人男性というものだ。


「これがドライヤー……!」


 そして売り場についた途端に、なぜかエリカが激しく興奮していた。

 もしエリカに尻尾があったとしたら、それはもう元気よくパタパタと振っていることだろう。


「これも事前に勉強して知ってるのか? でもドライヤーはドライヤーだろ? そんな興奮するようなもんじゃ――」


 なくないか? と言いかけた俺はしかし、


「ドライヤーは髪を乾かしてくれる魔法のアイテムです!」


 ずいーっと身を乗り出してきたエリカの、力強い言葉によって遮られてしまった。


「いやまぁそりゃあそうだろうけど、だからってそんなに力入れるもんでは――」


 ドライヤーはずばり髪を乾かすアイテムだ。

 そんなことはおしゃれに疎い男子小学生でも知っている。


「いいえトールは分かっていません! 女の子にとって長い髪を乾かすのがどれほど手間なことなのか……!」


「あ、うん、改めてそう言われると分かってないけどさ」


「他にも寝ぐせや外跳ねだって強敵なんです! 女の子が抱える積年の悩みを一手に解決してくれるドライヤーが、ドライヤーが……あのドライヤーが!! 女神学院のイラスト付き資料で見て以来ずっと憧れだったドライヤーが今、わたしの目の前にあるんですから!」


「お、おう、分かったよ、俺が悪かった。でも人の目があるからちょっと落ち着こうな?」


 エリカの熱病にうなされた可能ような熱弁っぷりに、俺はちょっと引き気味だ。

 他の客がチラチラとこっち見てるし。


 ドライヤーも見たことがない超がつく田舎者とか思われたら恥ずかしいんだけど。


「ああ、夢にまで見たドライヤーが手に入る……異世界転移して本当に良かった……わたしは今、人生で一番幸せです……ありがとうございますトール、わたしを召喚してくれて……」


「そ、そこまでだったのか……」


 ドライヤーって男の子的には割とどうでもいい家電だと思ってたんだけど、女の子的にはマストで必須のアイテムだったんだな。


 ドライヤーさん、正直見直したよ。


「しかもドライヤーはいざという時には強力な速効性の暖房器具にもなる優れものなんですよね。これも習いました!」


「異世界はほんと何を教えてるんだ? その知識は一般的な日本人はおそらく死ぬまで使いえない、極限下での使用法だよな? いや間違っちゃいないんだろうけど」


 漏れ聞く限り、異世界の教育方針にはところごころ不安を感じざるをえない俺だった。


「じゃあせっかくだしさ。ドライヤーも奮発していいの買おうぜ。見てみたら最近のは色んな機能がついてるみたいだし」


「よろしいのですか?」


「いいもなにも、もともとエリカの金だしな」


 残念ながら無職になってしまった俺に、高性能ドライヤーをほいほい買い与えるような甲斐性はない。

 だから原資は当然、例の持参金7億円だ。


「だからあれはトールのお金ですってば。それを勝手にわたしのものにしちゃったら、それこそ女神さまに天罰を受けちゃいますよ。女神さまはそういうところすごく厳しいお方なので」


「そっか、分かった」


 急に降って湧いた7億円とかあまりにも現実味がなさ過ぎだけど、エリカに天罰を喰らわせちゃうわけにもいかないよな。


 でもこの金を自分のためだけに使った瞬間、俺とエリカの結婚が確定事項になってしまうのだ。


 もちろんエリカみたいなよくできた子に好かれてそりゃ嬉しいんだけど。


 なんだかこう、完璧にお膳立てされすぎててちょっとモニョっとする気がしないでもないというか。


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