第26話 ショッピングモール(3)
「俺はその……エリカみたいな可愛い女の子に好きだって言われて、それはすごく嬉しいんだ。だけどいきなり過ぎてちょっと戸惑ってるってのが正直なところだ」
「その辺りはある程度察しております」
「決してエリカが嫌いってわけじゃないんだ。その、外見は正直すごく好みだし、明るい性格や優しい笑顔も素敵だなって思ってる」
「はい」
「ただその、いきなり結婚しましょうと言われると、ちょっと尻込みしちゃうっていうか。結婚ってほら、他人と家族になるっていう人生で最大級のビッグイベントだろ?」
「そういうことでしたら一緒に生活して親交を深める中で、ちょっとずつトールにも心を開いていただければと思っています」
「とりあえずはそうしてくれるとありがたいかな?」
「でも少しずつでいいので、トールがわたしのことを好きになっていって、最終的には結婚してくれると嬉しいです」
「未来のことだから確約はできないけど、分かった。ちゃんとエリカのことを意識していくから」
「約束ですよ?」
「ああ、約束だ」
布団コーナーで『結婚』とか『一緒に生活』とか『未来のこと』とかそんな会話をしていれば、傍から見たらどう見ても結婚前に同棲しようとしているカップルで、俺としてはかなり恥ずかしかった。
だけどエリカがすごく真面目な様子だったので、そんなエリカに俺もちゃんと向き合わないといけないって思って、俺なりに誠心誠意真面目に答えていた――んだけど、
「はい! 今、言質取りました! そういうわけですので、これからトールは結婚を前提にわたしをしっかりと意識して過ごしていってくださいね!」
真面目な雰囲気はどこへやら、突然エリカが朗らかに言った。
「……は? ……え?」
さっきまでの真剣な空気は、もはやどこにも感じられなかった。
いったい何がどうなったのかと目を白黒させる俺にエリカが言った。
「いやー実のところを申しますと、わたしも不安だったんですよね」
「不安……というと?」
「ほら一般論として、男の人はこと結婚となると尻込みしてダラダラと先延ばししたがる優柔不断で惰弱な生き物だって言いますよね?」
「あ、ああ……言うのかも?」
さすがに割合とかまでは知らないし、俺はそんな経験以前の吹けば飛ぶ30過ぎ無職童貞なので実感とかはまったく無いんだけど、追い詰められるまでどうしても結婚に踏ん切りがつかない男が多い、みたいな話は聞かなくもなかった。
「おっともちろんトールがそういう不埒で優柔不断な男だとは、わたしはこれっぽっちも思ってはおりませんので、そこは誤解はなきように。わたしはトールが決断する時は決断する、とても男らしく素晴らしい男性だと信じていますので」
「う、うん。ありがとうな……」
なんとなくそういうことはするなと釘を刺された気がする……なんとなく。
「なによりトールはちゃんと結婚を前提に、わたしを少しずつ好きになっていってくれると約束してくれましたからね。これでわたしも枕を高くして眠ることができそうです」
「えっと、あのさ?」
「はい、なんでしょう?」
「さっきまでものすごく真面目な雰囲気だったと思うんだけど、あれってまさか全部演技だったのか?」
「いえいえそんな、まさかですよ」
「だよな、よかった――」
「せいぜい半分本気、半分演技と言ったところですかね?」
「半分――50%が演技だったのかよ!? 十分たけーわ!」




