第25話 ショッピングモール(2)
「部屋にもう一つベッドを置くスペースはないから、畳んで片付けられるマットレスの布団セットにしようと思う」
マットレス売り場に向かいながら、俺はごくごく当たり前の提案をした。
「別にわたしはトールと一緒のベッドでも構いませんよ? むしろ一緒のベッドで同衾することを提案します的な?」
それに対して、上目づかいでみあげながらあざとく言ってくるエリカを、
「えーっと、この店長お勧めセットとかいいんじゃないか? マットレスにしっかりと厚みがあって、硬すぎないけどちゃんと反発力がある。セットの掛け布団も生地がしっかりしてるのに触り心地がさらさらで気持ちいいし。さすがは店長お勧めだな」
俺は入ってすぐこれはと目をつけた、ちょっと高めだけどいい感じのマットレス&掛け布団セットを実際に触って確かめながら、華麗にスルーした。
「ううっ、トールが冷たいです……」
「夏だから冷たい方が寝やすいだろ。やっぱり蒸し暑い日本の夏には、寝心地のいい寝具が必要だよな」
「お、上手いこと言いましたね! ヤマダ君、座布団1枚持ってきてあげて!」
「当たり前のように座布団1枚ってツッコんでくるとか、ほんとお前日本文化に明るいな!?」
「もう、公共の場でツッコむとかツッコまないとか、トールはいやらしいですね」
「はいはい配慮が足りない男ですんませんでしたね」
お、なんか「はい」が3つ続いたぞ?
いやまぁだからどうだってわけじゃないんだけど。
「そういうことは家に帰るまで我慢して下さいね♪」
「へいへい」
「なんだか急にトールが投げやりです……」
「朝からいろいろありすぎて、そろそろツッコむのにも疲れてきたっていうか」
「心労がかさんで日々の活力すら失われているなんて、まだ若いのになんとお痛わしいことでしょう」
「主に異世界から押しかけて来た誰かさんのせいでな」
「へぇ、そうなんですね。ところでこのお布団セット、ちょっとお値段しますよね? 他のより明らかに高いですけどいいんですか?」
さっきのはお返しとばかりに、俺の皮肉はさらっとスルーされた。
俺のツッコミとか皮肉を全く意に介しないエリカさんのダイヤモンド製メンタル、マジ半端ないって!
「寝具は毎日必ず、しかも長時間使うものだからちゃんと良い物を使わないとダメだって、一人暮らしする時に親に言われたんだよ。だから俺の使ってるもかなりいいヤツなんだぞ」
「初めて1人暮らしをするトールの身を案じて親身なアドバイスをくれるいい親御様なんですね」
「まぁ仲は悪くはないかな」
ただまぁ今となっては俺もかなりいい年なので、この前の食料品の仕送りみたいに親にあれこれ面倒を見てもらうことは、気が引けなくもなかった。
特に大学教授で何をやらせても上手くやって友人も多いハイスペックな父親と違って、俺は勉強も運動もパッとしない陰キャオタクなこともあって、特に働くようになってからは父親に対して少なくない劣等感を抱いていた。
ま、今は関係ない話だな。
「でもトールの親御様がそのようなことを仰られていたのであれば、未来の娘としてはこれはしっかりと心に留めておかざるを得ませんね」
「俺たち今日の朝に会ったばかりなのに、もう結婚が確定事項みたいにされてるんだが……」
「わたしは世界を救った勇者であるトールとの結婚願望100%ですから、わたし的にはもう確定事項なんですよね」
「ええぇ……」
「あとはトールの気持ち次第なんですけど、そこはまぁわたしとしてはいかんともしがたいところでして。愛――人の気持ちというのはとかく難しいものですね」
「なんかものすごいマジレスされてしまったんだが……」
「それはもちろん、わたしはいついかなる時もトールに本気ですから。今もこうやってトールを想うことを許されるだけで幸せを感じちゃうんですよ?」
そう言ったエリカは本当に幸せいっぱいって感じの笑みを浮かべていた。
その心からの笑顔を見せられて、ここは茶化したり適当に流しちゃいけない場面だと、俺はそう思ったのだった。
この気持ちには真面目に向き合わないといけないと、そう思った。




