第23話お料理(2)
「へぇ、料理ね……ちなみに何の料理なんだ?」
「……チンジャオロースです」
「ああこれチンジャオロースだったのか」
「ちょっと! どこからどう見てもこれはチンジャオロースですよ!」
「今の俺の素直な気持ちを表現するなら――どこからどう見てもこれは炭っつーんだよこの馬鹿野郎!」
「な、なんてことを言うんですか! 炭は食べ物じゃありませんよ! 訂正してください!」
「だから食べ物じゃなくて炭だっつってんだよ! 真っ黒こげ通り越して一部マジで炭化してるじゃねーか! こんなもん食えるか!」
「な、なんてひどい暴言を……! 存在を否定されたチンジャオロースに謝って! チンジャオロースに謝ってください!」
「なんで俺が謝るんだよ!? むしろおまえが食材を無駄にしたことに謝れや!?」
「申し訳ありませんでした! グズで愚鈍で無知蒙昧なわたしのせいでチンジャオロースさんを無意味に死地に送り込んでしまいました。犬死にさせてしまいました。チンジャオロースさんの尊い犠牲は一生忘れません!」
「あ、そこは素直に謝るのな」
「いやはやまったく、これくらいで炭になるとは惰弱極まりないチンジャオロースですね……!」
「でも実はまったく反省してねぇな!? っていうかさっき確か自信満々にレパートリーは豊富だって言ってたよな? あの自信はいったいどこから来てたんだ……」
「そこはそれ、一応知識はあったので挑戦してみたんですけど、いかんせん圧倒的に実技経験に欠けておりまして。やはり机上の空論はいけませんね。失敗しっぱい。別のものにするべきでした」
なんだこの反応……めっちゃ怪しいぞ……ほんとに料理できるのか?
よし、ちょっと試してみるか。
まずは簡単なことから――、
「なぁエリカ? 『お料理さしすせそ』って知ってるか?」
『お料理さしすせそ』とは、砂糖、塩、酢、しょうゆ、味噌と、料理をおいしく作るには「さしすせそ」の順に調味料を入れなさいという、古来より伝わる料理の基本中の基本だ。
「そりゃあもちろん知っていますよ! 馬鹿にしてもらっては困ります!」
「ま、チンジャオロースを炭にしてみせたエリカでもさすがにこれくらいは分かるか」
「当然です!」
むしろ分かってないと逆に困る。
でも念のため一応確認しておこう。
「ほー、じゃあ試しに言ってみて」
俺が疑念を抱いていることを知ってか知らずか、エリカは胸を張って言った。
「『さ』すがです、『し』りませんでした、『す』ごいです、『セ』ンスあります、『そ』うなんですね。これさえ言っておけば相手は決して悪い気分にならないという、まずい料理を出してしまった時の対処方法です!」
「全然ちげーよ! どんな状況を想定したテクニックだ、ああっ? 普通に作ったらそもそもそんなテクニックは必要ないよな!? ああもう、これからは料理は俺がするから、エリカは台所には立ち入り禁止だ!」
「な、なんですと!? 横暴ですよそれは! わたしは断固抗議します! 男女は平等であるべきです!」
「ろくにスキルもない奴が、無駄に食材を炭にするほうが横暴だっつーの!」
「ううっ、痛いところを突いてきましたね……はっ!? ですがつまりこれから先はトールの手料理を食べられるということでは? つまり愛夫料理、LOVEです! えへへ、わたしこれから毎日愛する夫の手料理を食べられるんですね、幸せです……」
「ほんと半端ないポジティブ・シンキングだな……このメンタルの固さ、心の底から見習いたい」
俺はエリカと一緒にごめんなさいと食材に謝ってから、炭化したチンジャオロースをポイすると、改めて2人分のチャーハンを用意した。
「美味しいです、すごく美味しいです。トールは料理ができたんですね」
「一人暮らしだから簡単なのくらいはな。チャーハンとかカレーとか麺類とか。自炊はやっぱり安く上がるし。でも手の込んだものとか時間がかかるものはできないよ」
「それでもすごいです。事実わたしにはできませんでしたし。さすがは異世界を救った勇者様で、わたしの未来の夫ですね」
「別にこれくらい誰でもすぐできるようになるよ。今は無職で時間もあるし、エリカがやりたかったら簡単に教えようか?」
「ほんとですか!? ありがとうございます! 是非とも料理を教えてください」
「だから料理っていうほど本格的じゃないってば」
おもちゃ売り場の子供みたいに目を輝かせて言ったエリカに、俺は苦笑しながら答えたのだった。




