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第17話 メイク・ドーテー・グレイト・アゲイン

 その後しばらく、特に何もなくエリカに肩を揉んでもらった後。


 ふたたび座卓を挟んで向かい合ったエリカに、俺は大切なことを尋ねた。


「この世界でこれから君はどうやって生活するんだ?」


「といいますと?」


「だからエリカはどこに住むのかなって思ってさ。異世界から来たんだから、この世界に住むための場所はないよな?」


「それはもちろん召喚主であるトールとご一緒させていただければ、と。未来の夫婦として。未来の夫婦として。大事なことなので2回言いました」


「そのネタはもういいから。っていうかいやいやいや、そんないきなり人を一人養えとか言われても無理だから」


 さっきも思ったんだけど、やっぱり一緒に住んで養うってのは俺的には不可能だ。


「といいますと? トールは結婚するまでは同棲NG派ということですか?」


「婚前同棲がありかなしかは、そもそもそんなことを考えたことがないからよく分からないんだけど……」


「トールはそうですよね、分かります」


「なぜそこでさも当然とばかりに納得するのかな?」


「いやですねぇ、トールは硬派な男性だと思っているからですよ」


「な、なんだよ、俺のことそんな風に思ってたのかよ。照れるじゃないか」


「そうですよ。別に女の子とろくにお付き合いもした経験もない、男にひたすら都合よく作られた深夜アニメのヒロインに好意を抱く、ピュアな心を持った童貞だなんてこれっぽっちも思ってませんから」


「めちゃくちゃ思ってんじゃねぇか!? 心の声がダダ洩れだっつーの! 少しはお口にチャックしろよな!?」


「大丈夫ですよ」


「なにがだよ?」


「童貞をコンプレックスに感じているのは、あなたの心です。意外と他の人は気にしていません。そもそも童貞とはかつては『清らかな身体』という素敵な意味を持っていたそうですよ。むしろ誇るべきことなんです、童貞は。メイク・ドーテー・グレイト・アゲイン!」


「お前ほんと日本の文化について詳しいよな!?」


「それはもうこの日に備えてしっかりと勉強してきましたから。もはやわたしは日本人以上に日本を知る、日本文化の伝道師と言っても過言ではありません」


「くっ、さすがは基幹世界『ディ・マリア』を代表して送り込まれたナンバーワンにしてオンリーワンのエリート巫女さん……! スペックが半端なく高い……!」


「それで何の話でしたっけ?」


「あの……そこでまるで何事もなかったかのように、いきなり急に素に戻られると、俺も昂った気持ちをどこにぶつけたらいいのか戸惑わざるを得ないんだが……」


「バチコーイ、切り替えていきましょう!」


「あ、はい、そうっすね……」


 俺は深く考えるのをやめて、本題に戻ることにした。


「俺ってさ、見ての通り1人暮らしなんだ。今はその、ちょっと間が悪いっていうか、勤め先が倒産して無職でさ」


「つまり無職童貞ですか」


「うぐ……っ。そ、それで失業保険は最大6カ月出るんだけど、元々薄給だったからそんなたいした額じゃなくてさ。貯金もあんまりなくて、この前も心配した親から食べ物の仕送りをして貰ったばかりなんだ」


「つまり?」


「つまり1人で生活できるギリギリ最低限のお金しか持ち合わせていないんです、すみません」


 俺は口にした事実のあまりの情けなさに肩を落として頭を垂れた。

 10年も働いてろくに貯金も無いとか、なんかもう生きててすみません。


「要するに金銭面が不安ということですね?」


「はい、そういうことです、甲斐性がなくて本当にごめんなさい。でも日本は世界一平和な代わりに物価がとても高くてさ。特にここ東京ってところは世界でもトップクラスなんだ。だから正直いきなり人一人増えてやってけるほど金は持っていない」


「なるほど」


 女の子を1人養う甲斐性なんてものを、俺は全く持ち合わせていなかった。


「だからせっかく異世界転移してもらったところ悪いんだけど――」


 一緒に住むことはできない――そう俺が言いかけると、


「それなら問題ありません」


 そう言って女の子が取り出したのは、とても見覚えのあるメタリックレッドのカードだった。


 日本人なら誰でも知ってるメガバンクの一つ、三菱UFJ銀行のクレジット機能付きのキャッシュカードだ。


 俺も学生時代に親からの仕送り先口座がここで、それ以来社会人になってもずっと使い続けていることもあって、だからとても馴染みがあった。


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