第14話 ハタチの美少女が10歳年上の男と同居するということ。
「うーん、そういうことじゃなくて……ほら、転移したらしたでその後は俺みたいな見知らぬ年上の男と一緒に過ごさないといけないわけだろ?」
初めて会った10歳以上年上の男と一緒に生活するって、女の子にしてみれば精神的にかなりしんどいことだと思うんだ。
しかも結婚ってことはその、な?
か、身体を許しちゃったりもするわけだろ?
す、するよな……?
「まったく、それこそ何をおっしゃるうさぎさんですよ。世界を救った勇者様に尽くせるなんて、これ以上の喜びはないじゃないですか。わたしほどの幸運を持った人間は基幹世界『ディ・マリア』にはいないでしょう。女神さまの教えに従い、巫女としての力を一心に磨いてきたかいがあったいうものです」
「……そんなものか」
「そんなものです」
「……ならいいんだけどさ」
そうだよな。
日本語が堪能で外見もネイティブ日本人だから勝手に俺がそんな風に思ってしまっただけで、俺とエリカは住んでいた世界すら違うのだ。
根本的な常識や価値観からして全然違っているのも、当たり前なのかもしれなかった。
日本人の価値観を、そうでない相手に勝手かつ一方的に押し付けるのはいけないよな。
「もう、トールは細かいことばっかり気にする人ですねぇ」
「俺がって言うより、異世界間の相互理解が不足しているのが原因かな?」
「ですがトールのそういう優しいところも、わたしはとても素敵だと思いますよ」
「ははっ、ありがと」
ま、エリカ自身が気にしてないのなら、俺が勝手な思い込みを元にあれこれ気に病む必要はないだろう。
ただそんなことを話しながら、俺はなんとも微妙な気持ちになっていた。
そりゃ世界間のパワーバランスをとることは、世界をまとめて管理する女神さまにとってはとても大事なんだろう。
だけどこと俺にとってはなんの関係もないわけで。
それで急に美少女がやってきてれこれ説明されて。
しかももう終わってるから何もしなくていいとまで言われてしまって。
じゃあ俺はこの後いったい何をどうすればいいんだよ?
何もしなくていいと言われても、こうして異世界から一人でやってきたエリカがここにいる以上、ほっぽりだすわけにはいかないだろ?
さすがにそれは人として終わってるもんな。
でも人一人の面倒を見るとか、今の俺にはどう考えても無理なんだ。
なにせ現在無職だし、物価が高い東京では中小企業での安月給で10年働いてもろくに貯金なんてできはしなかった。
それでも俺一人ならまだなんとかなるけど、もう一人を養うのは金銭的に不可能だ。
人が生きるには金がかかる。
東京ではなおさらだった。
勤め先が倒産して突然無職になったことで、俺は資本主義社会におけるその大原則をこれ以上なく分からされてしまっていた。
(はぁ、なんかもう考えることがいっぱい過ぎて、考えること自体が疲れてきたな……)
無職になった辛さとか不安を落ち着かせるために、失業手当を貰いながらちょっとだけ夏休み気分でも味わって英気を養おうかなって、俺は軽く思っていた。
だって言うのに、30代無職男性という社会的プレッシャーとか、この年で親に仕送りしてもらう申し訳なさとか、異世界転移した美少女との同居がこれから始まりそうとか、なんかもう精神的なアレやコレやで働いていた時よりも疲れる気がするんだけど。
何度も言うけど、俺はごくごく平凡な低所得者層の労働者だ(今は無職だけど)。
異世界転移する主人公みたいな隠されたすごい力も、何かをやり遂げる強い意志も、あらかじめ作者に答えを教えてもらっているとしか思えないチート解決能力も持ってはいない。
どうしたもんかと思っても、思っただけでは通帳残高は増えたりしないし、突然すごい力に目覚めたりもしないし、すぐに解決策が浮かんでくるわけでもない。
(知らなかった。30代の無職男性ってこんなにも大変だったんだな……)
なんかもう色々と精神的に疲れ果てた俺は、気分転換もかねてリモコンを掴むとポチっとテレビをつけた。
すると――!
「な、なんということでしょう! 急に黒い石板の中に小人さんが現れました! た、たたた大変です! はやく助けてあげないと!」
エリカがテレビを見た途端、指を差しながらあわあわ騒ぎ始めたのだ。




