こんな話を聞いた「運動会」
こんな話を聞いた「運動会」
「鉢巻よし、体育着よし、靴下よし。後は、寝るだけ」鼻歌〜
「タケル、何をしてるんだい」母の声。
「明日の運動会の準備だよ、母さん。プリント渡したでしょう」
「いやに楽しそうだね」
「僕はリレーのアンカーなんだ、頑張らなくっちゃ」
「違うよ!……母さんがこんなに辛いのに、なに楽しそうしてるんだって、言っているんだよ!」怒鳴る母親。
びっくりするタケル。
「ごめんなさい、明日は静かに朝御飯の用意するから」
ふらりと、冷蔵庫に向かう母親。
不思議に思うタケル。
「こうしてやる!」
ケチャップを体育着にかける母親。
「やめてー」
体育着をかばうタケル。
「うるさい、」
タケルの頭にもケチャップをかける母親。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
真っ赤になるタケルの顔。
「その目が嫌いなんだよ、あいつに似ているから……もっと、かけてやる」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
運動会当日、
「よう、タケル!何だい、その体育着は」
「昨日、運動会がうれしくてさ、鼻血が出ちゃったんだよ、ハハハ」
「そうかい、リレー頑張ってくれよな。赤組のために」
「解ってるよ…」
夕方、自宅
バタン、
「母さん、赤組優勝したよ。リレー1等賞だったよー」
賞状を持って駆けていくタケル。
動かない母親。居間でぐったりしている。
手から、赤い血が滴り落ちている。
ピーポーピーポー、
救急車のサイレン……
10年後、
都道府県対抗駅伝大会。
「アンカー、橋本タケル選手。もの凄い追い込み。追いつく、追いつく、」
アナウンサーの声。
沿道で旗を振る母親。
「頑張れータケル、頑張れータケル!」