グランデュール兄妹2
「お兄様たちにたくさん心配をかけていたのね…確かに辛い思いをたくさんした10年だったけど、私の身につけた淑女としての武器は王族にも通用するものだから最上級なの。私が努力した我慢した分素晴らしい自分になれてるのもわかるし自信もついたの…この婚約破棄があって私にもやりたい事が出来たから…」
そして兄たちへのプレゼンの為に用意した紙の束を出す。
前世で培った画力をこれでもかと発揮して四冊ほど書き上げた。
さすがに兄たちにBLどーん!と出すわけにはいかないので三冊は前世の童話をそのまま漫画に書き起こした。
ガラスの靴を落とすお姫様のお話と人魚のお話とマッチを売る女の子のお話。残りの一冊はテティにも見せた年齢指定なしのBLをこそっと混ぜて出した。
「これ私が書いたものなの。これを装丁して本にして売り出したいと思っているのだけど…一度読んでもらってもいいかしら…」
「本…内容が全部絵が描いてある!初めて見るものだね」
「すごいな…見た事ない絵柄じゃないか…リリアナが考えたなんて!」
二人はパラパラとめくってみて各々漫画の読み方を教えたらするする読み始めた。この世界に漫画がないからコマの読む順番が分からないのを想定して難しいコマ割りはしなかった。
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「なんだいこの素晴らしい話は!!ガラスの靴だけを頼りにたった一人の愛する人を探すなんて…男の鑑だよ。世の中の男性陣にはとても勉強になるよ」
「パーシー兄さん、こっちのマッチを売っている女の子の話なんてとても儚くて美しいよ!貴族としてもっと領民たちの事を考えさせられるな…」
前世の童話だから私が考えたわけではないけど、こちらの世界ならではの捉え方をしてくれたみたいね。
「どうかしら…?子ども向けのもので申し訳ないのだけど」
「これが子ども向けだって?大人も読んだ方がいいよ!こっちの人魚の話は社交界デビューしたばかりのお嬢さんたちに人気が出そうな悲恋話だな」
「しかし僕には男性同士の恋愛はちょっと難しいな…」
きたきた。このセリフを待っていたのよ!
「ええ、ええ、そうよね。こちらの本はとある少数の思想の方達向けなの!まだこの世の中じゃ受け入れてもらえないのは分かっているから…最初は他の二冊の様な物語のものを大々的に売り出そうと思っているわ」
私が考えていることはこの公爵領にも関係する。
「大切なのはブランディングよ!!あ、ブランディングっていうのはその物に付加価値をつけて世の中に知ってもらうための戦略なんだけど…」
ポカンとしている兄二人にわかりやすく噛み砕いて説明する。
「なによりもこの本屋の特徴はどこの本屋にも売っていない独自の物語を売り出すこと。これはグランデュール領に来ないと買えない物、という限定品として認識してほしいの」
「それが欲しい人達はこの土地まで足を運ぶ…すなわちグランデュール領が活性化するということか」
さすがパーシーお兄様ね。
そう、私が考えていたのはこの公爵領で特産品を生み出す事。
「我が領はルビーにサファイアと宝石が有名だけれどはっきり言って宝石はいつかは採掘もできなくなる。そうなるとそれに頼り切りの我が領は痩せてしまう」
いまは宝石で潤っているこの土地も次の代やさらにその次の代まで続くとは限らない。
領民が潤わなければ人がいなくなる、そうなった時グランデュール公爵家は立ち行かなくなってしまう。そんな貴族は五万といるわ。
お兄様たちもそれは分かっているけど大きな課題となってたちはだかっているのだ。
「私たち兄妹は領民を守る使命があるわ!領民も大切な私たちの家族だと思ってるの…だからまず手始めに誰もが人生で一度は手に取る本を新しい内容でこの領地の特産物の一つにしたいの。それが成功したらどうなるか想像してみて?」
「あ!この土地でしか買いないものをいろんな土地の人間が買いに来る…そうすると必然的に宿や飯屋に人が集まって他の店にも金が流れる…って事か!!」
やっぱり私の兄たちは優秀だ。
私の最終の目的は同人誌を売り出す事。さらに人の書いたものが読みたい私利私欲混じりでいつかは商業BL作家さえも育て上げたいと思っている。
そんな事とはつゆ知らず私のプレゼンに盛り上がってくれている兄たちにニヤリ顔が止まらなくなる。
あ、領地のことを考えているのは本当のことよ?