グランデュール兄妹
あれからすぐテティを連れてグランデュール領へ出発し、無事に生まれ育った我が家でリリアナはのんびり過ごしている。
「うーん、お昼からワイン飲んで美味しいおやつを食べるって最高ね!」
ありがたいことに視察に出ていてお兄様は家にいないので私が来てからまだ一度も顔を合わせていない。だからこんなにのんびり食っちゃ寝しているのだ。
「あんな地獄のような妃教育に10年も耐えたのよ。少しくらい怠惰な生活おくりたいじゃない」
思い出しただけでも身震いするような地獄の妃教育…ライラ様はこれからあれを受けると考えると可哀想に…と同情もしてしまうが、私からしたら感謝しかない。
私はまだ幼い子供だったので柔軟な頭と体だったから良かったけどこの歳から妃教育を受けるとなるととてつもない努力をしないといけない事は目に見て取れる。
「お嬢様が心配して差し上げる義理はありませんよ。王子殿下とライラ嬢が巻いた種なのですから」
そう言って私が手に持って開けようとした二本目のワインをサッと奪っていく。
ここ最近食べまくり飲みまくりですこーしだけ太った…かなぁ…なんて思っていたこともテティにはお見通しだったみたい。
「あーん、ワイン返してよう」
「可愛子ぶっても今更です。見た目と所作だけは妃教育の賜物で誰よりも完璧なのですからそれ以上おお太りあそばされてはこまります」
ぐっ…
痛いところをつかれて何にも言えなくなる。
「今日はパーシー様もシルヴァ様もお戻りになられて夕食をご一緒されるんですからしっかりしてください」
そうだった。今日は兄二人が家に戻るので夕飯を一緒に食べてからこれからの事を話すことになっている。
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夕飯の準備が出来たとテティの迎えが来たので急いで食堂へ向かう。食堂といっても公爵家の屋敷なだけあってそこらのレストランより豪華な部屋だ。
「パーシーお兄様!シルヴァお兄様!お久しぶりでございます」
久しぶりに会う兄たちに小走りになって嬉しくて抱きついてしまう。淑女らしくしなきゃいけないのはわかってるけど大好きな二人に会えて我慢できなかったんだもん。
「リリアナ!元気だったか?また一段と綺麗になったなぁ」
「久しぶりに会えて嬉しいよ!今日からまた楽しくここで一緒に暮らせるなんてなぁ」
長男であるパーシーお兄様は今年で二十三歳。婚約者である侯爵令嬢と来年には結婚してしまうし、シルヴァお兄様も婚約者が決まったばかりできっとすぐ結婚して婿入りしてしまう。そうなるとこうやって家族だけで過ごすことも残り少ない。
ついこうやってお兄様たちに甘えてしまうのだ。
そして食事が終わり、談話室に移動して三人でワインで乾杯をした。
「しかし殿下も何かやらかすんじゃないかと思っていたけどどんでもない事をやらかしてくれたよなぁ」
「全くだよ。陛下にも今回ばかりは同情するね」
「私は実を言うとこうなって良かったと思っているの。だって子供の頃からウィル殿下の事がどうしても好きになれなかったし、幸せになんて絶対なれないとおもってたから…」
これは本心だ。
「自由の身となった今、私は何でもできるしどこでもいけるんです。人生の中で諦めていた事が全部できるなんてこんか嬉しい事はないわ」
パーシーお兄様がそっと手を握って頷いてくれる。
「そうだな、これからはやりたい事をやったらいい。僕たちももちろん出来うる限りの協力は惜しまないよ。なんて言っても我が家は公爵家だ、財産も地位も名誉も…そしてなによりも素晴らしい家族がそろっているんだ」
「ずっとお前だけつらい妃教育を子供の頃から受けていた事で辛そうにしているのをわかっていながら何も出来なかった事を後悔してる…これからは少しでも支えたいとおもってるんだ。俺たちは結婚をしてしまうけど家族なのは変わらない」
初めてお兄様たちの思っている事を聞いた。王子殿下という王族の婚約者となった妹の妃教育にまだ子供でなんの力もない兄たちが何も出来ないのは当たり前だ。
それでも気にかけて、想ってくれていた。ただそれだけで私は報われた気持ちになる。