私メリー。最近、電車通勤に切り替えたの。
『私メリー。今電車に乗ってるの』
『私メリー。今、ちがえし駅を通過したの……』
『私メリー。今、よみのひらさか駅を通りすぎたの…………』
『私メリー。今、きさらぎ駅に到着したの…………。えうっ、ひっく……かえりたいの…………』
深夜二時。当然の如く睡眠に勤しんでいる僕を、目覚めさせたのはアホな都市伝説からの電話だった。何してくれてやがるんだ。
「メリーさんごときが僕の睡眠を妨げるとはいい度胸だな。あと、なんで別の怪異に巻き込まれてんだよ」
大馬鹿か間抜けのどっちだ。
『寝過ごしたの……』
アホの方だったわ。
「怪異が電車乗んなや」
『二酸化炭素削減に貢献しようと思っていたの』
「地球環境に関心をもってらっしゃるー?」
もしかして、この怪異意識高い系……?
『私メリー。当然のことよ。私達──都市伝説は──あなた達人間から産み出され、あなた達人間と共に滅びゆく存在。地球が滅びると困るのだから。因みに毎日無賃乗車よ』
「最後で全部台無しだよ」
しかもこいつ人間じゃねえから、無賃乗車を裁く法もねえんだったわ。最悪だな。
『私メリー。ガソリン代もかからないの。電車通勤万歳!』
「むしろ、メリーさんの移動手段に自動車があるっていう方が衝撃だわ」
歩いて追いかけてこいよそっちの方が多分怖いだろ。
あと、さすがにガソリンはチョロまかできないのね。
『私メリー。今気づいたのだけれど、脱線しかしていなかったの。ガソリン代の価格高騰はどうでもいい話ね。別の怪異に巻き込まれてめっちゃつらたん』
「お前いつ生まれなんだよ」
そして、普通に流行に乗り遅れてるんだよな。今の流行の言葉が何かは僕も知らんが。
「というか、おんなじ怪異仲間なんだから、挨拶でもすれば帰して貰えるんじゃねえの?」
『私メリー。実は私、人見知りなの』
「そんくらい我慢しろや!」
あと、お前ら人じゃねえだろうが。怪異見知り?
『私メリー。きさらぎ駅からの正攻法な帰還方法を教えてほしいの』
「自力で調べろ」
『通信制限なうなの。田舎なせいで、Wi-Fiすら完備されてないのよね、くそめ』
「田舎ってくくりでいいの、そこ?あと、通信制限かかるほど何してんだお前」
そもそもの話だが。きさらぎ駅という都市伝説、もしくは怪異譚に、帰還者がいたんだっけか。
神隠しの文脈から派生した怪談なんだろうけど、発生元は古きよきインターネットの海だしなあ。
などなどと、心優しい僕が考えを巡らせていると、電話から『ゴンッ!』と固いものが何かにぶつかる音がした。
『私メリー。頭殴られたの……』
「ありゃま」
どうせ、死にやしねえんだろうけど。
『田舎って言ったせいで、ここの主を怒らせたみたいなの。本格的に帰る手段がなくなってしまったわね……』
「口は災いのもとって言葉を贈ってやろう」
うーん、本格的にめんどくさくなってきたなあ。
明日も仕事だから、無視して寝直してしまおうか。
『言っておくけど、私のことを無視したら、あなたのスマホの履歴をあなたの親しい友人知人、親しくもない上司に送り付けてあげるから。私メリー』
「シンプルな脅しやめろや!」
それと、今喋り初めの名乗りを忘れてただろ貴様!
ただ、脅されたところで手がないことにはかわりはない。
きさらぎ駅に関する情報が少なすぎるのだ。いまいちその特性がはっきりとしていない。その点、口裂け女とかなら対処法も含めて有名だから、こっちでなんとか…………。特性…………。
「なあ、メリー婆さんや」
『なんだ爺さんや。私メリーまだまだお肌ピチピチのギャルよ誰が婆さんよぶっ呪うわよ』
「ならちょうど良いや。僕を呪えばこっちこれるんじゃねえの?」
『あっ…………!』
都市伝説屈指のストーカー女だろお前は。
メリーさんは即座に通話を切断、その数秒後に新たな着信がきた。
『私メリー。今あなたの部屋のなかにいるの』
「帰れ」
振り替えればメリーさん(フランス人形の姿)がいた。
『まあまあ、そう言わずに。お礼になんでもするから』
「ん?」
今なんでもっていった?
翌日。
「ええ…………?その人形なに?」
「僕の目覚まし時計です。居眠り防止にぴったりなんで」
「いや…………今その人形顔動かなかった?」
「仕様です」
「仕様って…………ちょ、毛のびてない!?のろわれてないそれ?!」
一日付きっきりで、僕が眠らないようにしてくれる素晴らしい人形だぞ。羨ましかろう。
メリーさん 怪異的激務のせいで寝過ごしたらうっかり違う駅に着いてしまった
僕 最近上司から目をそらされるようになってしまった
駅の主さん どこが田舎じゃボケえ!E○Nあるやろが!
前作です
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