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凛と咲け  作者: 三郷 柳
32/38

32 女子会(1)

すみません。女子会はまだ始まりません。

適当なタイトルが見つかりませんでした……。


 木々が赤や黄色に色づいて、秋の訪れを感じる。空気も少し冷たくなってきた。

「わぁ! 凄いわ……! これが紅葉なのね! 私、これがずっと見たかったの。本当に綺麗だわぁ」

 寮から校舎に向かう道すがら、一面の木々の彩りにソフィアが感嘆する。その気持ちはよくわかる。まるで紅葉のトンネルを通っているみたいだ。絵画の中を歩いているような不思議な感覚になる。

「えぇ。とても綺麗ね。私、絵心ないのだけれど今この一瞬を絵に描きたいと思うわ。ソフィアが紅葉を眺めている横顔とか。綺麗なものは残したくなってしまうわね」

「確かにそれはそうだね。美しいものは後世のために残しておかなくては。ね、サイラス?」

 紅葉のトンネルをソフィアと二人で歩いていると、背後から聞きなれた人懐こい声。何故この方はいつも背後から登場するのだろうと不思議に思う。そしてサリバン様の斜め後方には申し訳なさそうなクラーク様の姿。

「サリバン様! 急に登場してくるの、心臓に悪いので控えていただけません?」

 ソフィが私の言葉を代弁してくれた。

「ごめんごめん。そう怒らないでよベネット。せっかくこの紅葉に映える君の顔をフローレスが描きたがっていたのに」

「驚かせて怒らせているのはサリバン様でしょう。……まぁ、良いです。サリバン様ですし」

 ソフィアはやれやれと肩を竦める。もはや諦めの境地である。

「すまなかったな、二人とも」

「いえ、クラーク様が謝ることはないのです」

 ソフィアが頭を振って答える。当の本人はいつものように楽しそうに微笑んでいた。

「フローレスは絵が好きなのかい?」

「見るのは好きなのですけれど、描くのはからきし駄目ですね。きっと8歳の弟より下手ですわ」

 恥ずかしながら、絵心や芸術的センスがまるでない。アイリスは刺繍の図案などを自分で書いているので絵がとても上手だし、アーサーも伸び伸びとした自由な絵を描く。二人の描いた絵を見るのはとても楽しくて好きなのだが、私が筆をとると何とも言えない仕上がりになってしまうのだ。

「意外だね。フローレスにも苦手なことがあって安心したよ」

 サリバン様はそう言って爽やかに笑う。

「そうだ。絵を見るのが好きなら、今度サイラスの描いた絵を見てみると良いよ。とても綺麗な絵を描くから」

「そうなのですか?」

 クラーク様は相変わらずの無表情だが、少し恥ずかしそうにサリバン様の背中を小突いた。

「サリバンは大げさなのだ。あくまで趣味だからな。そう完成度の高いものではない」

「また謙遜してー」

 サリバン様は気にせずニヤニヤと悪戯っぽく笑っている。

「クラーク様の絵、見てみたいです。ね、カメリア」

 ワクワクしたソフィアの青い瞳が私を覗いた。

「はい。もし宜しければ、私も見てみたいです」

 私達の期待がこもった瞳がクラーク様に注がれる。逃げ場をなくしたクラーク様は頷いた。

「分かった。今度研究室にいくつか持っていくから見に来ると良い」

「ありがとうございます!」

 少々強引に頷かせてしまった感はあるが、クラーク様の描いた絵が見られるのは正直嬉しい。それに、研究以外の趣味をひとつ知ることができた。サリバン様に感謝である。

「サイラスは人物画は描かないよね。今度フローレスをモデルにしてみたら?」

 サリバン様の言葉に硬直する。心臓が暴れている。耳や顔が赤くならないかとハラハラしてしまう。

「い、いえ。私がクラーク様の絵のモデルだなんて。恐れ多いです」

「そうかなぁ。きっと素晴らしい作品になると思うけど」

「サリバン。フローレスを困らせるな」

 クラーク様がサリバン様を諫めた。

「そうだね。今はまだその時じゃないか。でもいつかきっと見られると思うよ」

 そう言ってサリバン様はニコリと笑う。言葉の真意を図り切れずに首を傾げる。

「またお前は余計なことを……」

「僕は期待してるから。頑張ってよね、サイラス」

 この言葉には何も返さず大きく溜息を吐いたクラーク様は、サリバン様の背中を押して歩き出す。

「すまなかったな、二人とも。ではまた今度」

 先に校舎へと向かうお二人の背中を見送った。


「ねぇ、カメリア。ちょっとお話しない?」

 放課後、帰宅の準備をしているとソフィアが私の席にやってきてニコリと笑った。

「えぇ、構わないけれど。どうかしたの?」

「いいからいいから!」

 妙にご機嫌なソフィアに背中を押され教室を出る。向かった先は植物園だった。

「植物園?」

「図書室だと私語厳禁だし、食堂は人が多いから。ここなら気兼ねなくお喋りできるでしょう?」

 確かにソフィアの言う通り、植物園はあまり人が来ない。こんなに綺麗に手入れされた空間だというのに。

「なるほど、確かにそうね」

 私の言葉の矢先、一人生徒が入ってきた。けれどそれは見覚えのある顔。

「オーレリア様、お久しぶりです」

「あら、カメリア。久しぶりね。そちらはお友達?」

 艶やかな黒髪にアメジストを思わせる紫色の瞳。陶器のように白い肌に整ったお顔立ちはまさに芸術作品。いつみても美しい人だと思う。

「はい。こちらは同じクラスのソフィア・ベネット伯爵令嬢です」

「ソフィア・ベネットと申します」

 ソフィアが軽く膝を折って礼の形をとる。

「よろしく、ソフィア。私は三年のオーレリア・コールドウェルよ。是非オーレリアと呼んで?」

「よろしくお願いいたします、オーレリア様」

 オーレリア様の美しさに驚きつつも、流石はソフィア。素早く我に返って笑顔で挨拶をこなした。

「そうだ、オーレリア様もご一緒にどうですか?」

 ソフィアが名案を思いついてとばかりに手を叩く。

「あら、二人で何かしていたの?」

「これからするところだったのです。〈女子会〉を」

――初耳よ、ソフィア。

 心の中で突っ込みを入れる。

「噂は聞いたことがあるわ。巷で流行っているのでしょう? 一度やってみたかったの。ぜひ参加したいわ」

 オーレリア様も乗り気である。そしてテーブルが備え付けられた椅子に三人で腰掛けた。

――何か、不思議な組み合わせね。

 両手に花とはこのことを言うのだろうと思う。両側を美少女に挟まれ、何とも不思議な女子会が開催される。

次回、女子会です!

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