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凛と咲け  作者: 三郷 柳
16/38

16 食堂にて


 午前の授業が終わり、ソフィアと共に食堂へと向かう。廊下は生徒で溢れかえっている。

「この校舎、本当に広いわよね」

 廊下を歩きながら呟く。

「そうねぇ。調度品も多くて見ていて楽しいけれど。迷子にならないか少し不安かも」

 ソフィアが悪戯っぽく笑う。

「今日の授業が終わったら、校内を少し探索してみない?」

「いいね、それ! 図書室にも行ってみたいし」

 私の提案にソフィアは目を輝かせた。

 他愛もない話をしながら歩いているうちに食堂へ到着した。全生徒が集まることのできる食堂は相当な広さである。

「バイキング形式なのね」

 ソフィアの言う通り、豪華な食事が用意されており、生徒が列をなしている。

 私達も列に並び思い思いに料理を取り分けると、人があまり密集していない席に座った。

「流石、子息令嬢が通う学園ね。どの料理も美味しいわ」

 ソフィアは幸せそうな顔で料理を頬張っている。

「そうね。私、友達と一緒に食事するなんて初めてなの。とても楽しいわ」

「私もよ、カメリア」

 ソフィアの笑顔に癒される。

 暫く二人で談笑しながら食事をしていると、視線を感じた。顔を上げると目が合ったのは、不機嫌そうなイーデン様。

「彼、カメリアのこと見ていたけれど、知り合い?」

「えぇ。婚約者のイーデン・ミラー様よ」

「そうなのね」

 明らかに好意的ではない視線を向けられていたのに、そのことには一切触れないソフィアに救われた。

「ということは卒業したら結婚?」

「そうね。きっとそうなると思うわ」

「そう……。おめでたい話だけれど、少しもったいない気もするわね」

 ソフィアが残念そうに溜息を吐いた。

「もったいない?」

「えぇ。だって、カメリアは首席でこの学園に入学したでしょう? 女生徒で首席入学なんてそうそうないと聞いたわ。きっと研究室にだって入れるだろうし。その道に進む未来があったらいいのになって。ごめんなさい、私の勝手な想像だからあまり気にしないで」

 ソフィアの話した「もしも」の話に心が跳ねた。きっと叶うことのない未来の話だけれど。

「そうね。その未来はきっと素敵ね」

 想像する分には自由だ。もしもの未来を想像すると、自然と笑みが零れた。

「フローレス」

 耳心地の良い落ち着いた声が私を呼ぶ。

 振り返ると、トレーを持ったクラーク様の姿。サリバン様もご一緒だ。

「やぁ、フローレス。友達、できたみたいで良かったね」

 サリバン様が微笑むと、周りの女生徒たちが色めき立った。

「はい。こちら、ソフィア・ベネット伯爵令嬢です」

「ごきげんよう、ソフィア・ベネットと申します」

 ソフィアは突然現れた先輩にも臆することなく挨拶する。

「やぁ、ベネット。僕はアーネスト・サリバン。こっちの無表情はサイラス・クラークだ。僕たちもご一緒していいかな?」

 サリバン様が爽やかな笑みを浮かべると、ソフィアもニコリと微笑み返した。

「もちろんです、サリバン様」

 サリバン様は少し目を丸くして、楽し気に口元を緩めた。

「ありがとう」

 そう言ってお二人は私達の向かいの席に腰を下ろした。周囲の女生徒たちの視線が痛い。

「二人ともAクラスかい?」

「はい」

 サリバン様の問いかけにソフィアが答えた。

「てことは彼と同じクラスだね。イライアス・カイ・アルヴェーン殿下」

「えぇ。とてもお優しい方で安心しました。ね、カメリア」

 ソフィアに話を振られ、三人の視線が集まる。美形に囲まれていることに改めて気づく。

「はい。色々とお気遣いくださって。王族の方にこんなことを言うのは失礼かもしれませんが、どこか親近感が湧くような、お優しいお人柄でした」

 私が答えると、サリバン様はニヤニヤしながらクラーク様を見つめた。

「そっかぁ。それは良かったね。いやぁ、サイラスも大変だ。ここでまさかの殿下のご登場かぁ。面白くなってきたねぇ」

 私とソフィアは意味が汲めずに首を傾げてしまう。

「気にしなくていい、二人とも。サリバンの話は聞き流すくらいでちょうど良い」

 クラーク様が溜息を吐きながら言った。

「ふふ。承知しました」

 ソフィアはクラーク様の一言に吹き出し、楽しそうにくすくすと笑っている。

「受け入れるのが早くないかい、ベネット」

 サリバン様もソフィアにつられて笑っている。和やかな空気に心が落ち着く。

「そういえば、オーレリア様はご一緒ではないのですか?」

  私の言葉にお二人が遠い目をなさった。

「あぁ、コールドウェルは今レイン先生の無茶振りに付き合わされている」

 クラーク様がこめかみを押さえた。

「コールドウェルに八つ当たりされるのは僕なんだよなぁ。ほんとに、どうにかならないかなあの人」

 サリバン様も深いため息を吐いた。

「殿下にも伺ったのですが、レイン先生ってそんなにめちゃくちゃな方なのですか?」

 ソフィアがこてんと首を傾げると、サリバン様が乾いた笑い声を漏らした。

「めちゃくちゃだねぇ。きっと会えばすぐにわかるよ。おすすめはしないけど」

 爽やかな笑顔の奥に疲れが見える。

「怖いもの見たさ的なわくわく感がありますね」

 ソフィアのエメラルドの瞳が好奇心で輝く。

「午後にレイン先生の授業がありますね。私も少しわくわくします」

 私達の好奇心いっぱいの笑顔を見て、先輩二人は複雑な表情を浮かべていた。

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