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凛と咲け  作者: 三郷 柳
14/38

14 待ち望んだ日

同期三人組を書くのが楽しいです。


 長い間待ち望んでいた日が来た。カメリア・フローレス13歳の春。私は今日、学園に入学する。

「学園ってとても広いのね……」

 緑豊かな校内。庭園やサロンもあるようだ。そして目に入ってくるのは大きな噴水。噴水前には学生たちが集まって談笑している。新入生を歓迎してくれているのだろう。

 目に留まるすべてが物珍しくて、そしてようやくこの場所に来られたことが嬉しくて胸が高鳴る。

「皆さん、顔見知りの方が多いのね」

 新入生の様子を見ていると、すでにいくつかグループが形成されている。

――ちゃんと馴染めるかしら。

 同年代との関りはほとんどなかった。学園に入って勉強をすることだけを楽しみにしていたが、今になって友人ができなかったらどうしようかと不安になってきた。

「……友達ってどうやって作るのかしら」

 入学そうそうぶつかる壁に頭を悩ませていると、後方から声を掛けられた。

「フローレス」

 その声は、記憶の中よりもずっと低くなっていたがそれでもすぐに分かった。この落ち着いた声の持ち主を。

「待ちくたびれた。入学おめでとう」

 振り返ると、日の光を受けてキラキラした赤髪が風に揺れ、懐かしい瞳がこちらを見ていた。クラーク様は、とても美しく成長されていた。

「お久しぶりです、クラーク様」

 あまりの神々しさに一瞬思考が止まってしまったが、変わらぬ無表情が懐かしく。ようやく会えたのだという安堵に包まれる。

「あぁ。……不思議だな」

 クラーク様は私を見つめて呟いた。

「最後に会った時君はまだ8歳で、記憶の中のフローレスは小さな子供なのに。後ろ姿ですぐに分かった」

 通り抜けた風がクラーク様の赤髪を揺らす。

「クラーク様も――」

 続けようとした言葉は、クラーク様の後ろからひょこっと登場した人物に驚いて飲み込んでしまった。

「やぁ! 君がカメリアだね。僕はアーネスト・サリバン。よろしくね」

 金髪碧眼の美少年が人の良い笑みを浮かべて握手を求めてきた。

「よろしくお願いします……」

 呆気にとられつつも手を伸ばし握手に応じようとすると、クラーク様がサリバン様の肩をグイと引いて遠ざけた。

「どうしたの、サイラス。僕はただ可愛い後輩に挨拶しただけじゃないか~」

 軽い口調でニヤニヤと笑っているサリバン様は、楽しそうにクラーク様の様子を窺っている。

「フローレスだ、サリバン」

 クラーク様は軽く眉間にしわを寄せ抗議している。

――とても仲が良いのね。

 二人は気の置けない仲、といった様子で言い合いをしている。友達と話すときの雰囲気はこうなのか、と図らずも新たな一面を知ることができた。

「ごきげんよう、あなたがカメリア・フローレスね?」

 そう言って現れたのは、芸術作品と見紛うほどの美少女。艶のある黒髪はふんわりとウェーブし、透き通る肌にアメジストのような紫色の瞳。クラーク様を彷彿とさせる無表情が彼女を現実世界から切り離しているようで。

「は、はい。よろしくお願いします……っ」

 あまりの美しさに緊張して声が上擦る。現実味のない美しさに見惚れ、頬が熱くなるのを感じる。

「あらら。オーレリアに先越されそうじゃない? サイラス」

 私の様子を見て、サリバン様は楽しそうにクラーク様の頬をつつく。

――頬っぺたムニムニされているクラーク様、可愛い。

 もう少し見ていたかったけれど、クラーク様がサリバン様の指をぐにっと掴んで止めてしまった。

「コールドウェルよ、サリバン」

 アメジストの瞳がキッとサリバン様を刺す。サリバン様はニコッと笑って肩を竦めた。

「私のことはオーレリアと呼んで? 私もカメリアと呼んでいいかしら?」

 綺麗な形の唇が弧を描く。

「はい! もちろんです」

「えぇ~。カメリアだけずるいなぁ」

 サリバン様が軽い調子で茶々を入れると、クラーク様の蹴りが入った。

「だから、フローレスだ」

 そして間髪入れずにオーレリア様がサリバン様の頬を抓る。

「カメリアに絡まないで」

 お二人のサリバン様に対する扱いが雑すぎて目を丸くする。けれど三人の空気はとても自然で、いつもこうなのだろうなと思うと微笑ましくて、思わず笑ってしまった。

「ふふっ」

「悪い、フローレス。良い奴なのだがどこまでも軽い男なのだ」

「ごめんなさいね、カメリア。学習能力のない阿呆なの」

「いやぁ二人の愛が強すぎて痛いね」

 頬をすりすりと撫でながらサリバン様は笑っている。

「本当に仲がよろしいのですね」

 私の言葉にサリバン様は満足げに微笑み、オーレリア様は少し不服そうで、クラーク様は変わらぬ無表情。

「私も、皆さんのような友達ができるでしょうか……」

 ぽつりと零れた不安。今まで関わってきた同年代はアイリスとイーデン様とクラーク様しかいない。これから向かう教室で、ちゃんと友人ができるのだろうか。クラスに馴染むことはできるのだろうかと不安が顔を出す。

「心配ない」

 クラーク様の落ち着いた低音が私を包む。黄みがかった緑色の瞳が優し気に私を見つめている。

「フローレスは優しいからな。きっとすぐに友達もできるだろう」

「そうね。何かあれば私達がいるから安心して?」

 オーレリア様が私の手を握って微笑む。美しすぎて女神に見える。

「大丈夫だよ、フローレス。この無表情愛想ゼロの二人にも友達ができたんだから。自信もって?」

 爽やかに微笑むサリバン様を、オーレリア様の鋭い視線が刺した。

「本当に余計なことしか言わないわね」

 目の前で繰り広げられる三人の掛け合いが緊張を解していく。自然と笑みが零れる。

「それでいい、フローレス。そうして笑っているのが、一番良い」

 クラーク様の声が柔らかくて、小さく心が跳ねた。

「それじゃあ、私達はそろそろ戻る。これからは頻繫に顔を合せることになるだろうから、またその時に」

「そうだね。フローレスもきっとすぐレイン先生に捕まるだろうから」

「あぁ、そういえば居たわね厄介なのが。大丈夫よ、カメリア。出来るだけ被害が出ないようにするから、サリバンが」

「え~。僕にあの人押し付けないでよ」

 オーレリア様がニコリと微笑み、抗議を上げるサリバン様はクラーク様に首根っこを掴まれて連れられて行った。

――良い先輩方だな。

 三人の掛け合いで程よく緊張が解れた。そして私も教室へと向かう。待ち望んだ学園生活が、ようやく始まる。

 

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