赤の手帳の感情対価取立人
ノリで読んで。不適切個所は優しく教えてプリーズ。
―お金が欲しかったんでしょ?-
逢魔が時、終わらない工事とどんどん上に伸びるビルのすきまから聞こえた静かな、けれど子ども特有の声。圧迫される仕事と、減らない心労、他人の不幸の予感にちょっと覗いてやろうと、魔が差した、それだけだったんだ。
―対価を、支払っただけだよ。-
「・・・あ゛っ、あ゛・・・、っ・・・。。。」
胸を押さえてくずくまり痙攣をはじめる中年の女と、零れ落ちそうな大きな黒目で女を見ている長い黒髪の少女。やがて女の痙攣が止まり、動かなくなっていた。
やばい。
本能の警告が鳴る。
おもむろに少女が手に持っていた赤い手帳をめくり、俺をみた。
そう、俺を見たんだ!
「・・・えっと、あと30万だよ。・・・負債の支払いどうする?」
「・・・、・・・し、はらい・・・?」
カラカラに渇いていた口を必死に動かして、不可解な問いに答える。
「そう支払い!えっとね、感情対価取立法第924条より、取立現場に他負債者が居合わせた場合、取立中の負債者の取立例の開示を特例として認める。ん~とね、お兄ちゃんが見たお姉ちゃんは結婚詐欺。お兄ちゃんは投資詐欺だね。最初が200万、次が500万、細々としたものも加味してお兄ちゃんの場合あと30万程度の貸付が可能だよ。」
少女が無邪気に俺を見る。
不可解な言葉にひっかかりを覚え、逃げ出したい足を叱咤し、舌で唇をしめらしてゆっくりと口をひらく。
「・・・感情対価?・・・ごっこ遊びかな・・・?親御さん、と、待ち合わせはしてる?」
・・・目の前にいるのは少女だ。
何を怯えるんだ俺。
「・・・え~、だったら最初に目が、次に肝臓が、最近は息切れしてるでしょ?」
くそ!雨が降ってきやがった。
何を怯える俺、いつもどおり、状況を分析し、冷静になれ。
「ん~、あとは感情対価取立法第824条借入人の支払い能力欠如、又は支払い拒否をした場合、健康と運気を差し押さえる事を可能とする。・・・う~んとね!徳をつんで循環させるか、血を分けた親族がいれば肩代わりしてもらえるよ!」
運気だ?!徳だ?!新手の宗教勧誘か?
目の前にいるのは、ただのいかれた子どもだ!
「あれれ~?お兄ちゃん親族枠の肩代わり上限使い切ってるね。」
何が肩代わりだ、そもそも俺は悪くない。
「・・・あれは、ビジネスであって、・・・お互い、納得の・・・結果だ・・・。」
話を理解できないのが愚かなんだ。
ーピコンッ!-
「あっ!大和政府から緊急事態宣言だって!」
誰だ!俺の目をふさいだのは!
子どもの仲間がいたのか!
「・・・っあ・・・コゲツいちゃった・・・。」
くそ!体が、・・・息がっ・・・
おれ・・・、な・・・ぃ・・・
「あ~ぁ、お仕事増えちゃった。もう!お兄ちゃんそんな顔してもダメだよ~!」
赤い手帳に書き込む少女と、少女の前にうずくまり悶絶する男。
―・・・を、・・・だけよ。-
少女の言葉が暗闇に溶け、
聞けたのは事切れた男のみ。
ちょっと寂れた建物の談話室
寂れた男「ロリババァ、今日の取立うまくいったか~?」
黒髪少女「ババァ言うなら労わって?上手くいきすぎて、もう残業確定だよ!運気まで支払いにまわしてるヤツってほんと現場でホイホイ釣れる。みんな詐欺しすぎだよ~!そんな坊には私にイチゴミルクの進呈する名誉を許す!」
寂れた男「へいへい。いつもお世話になってますぅ~。でもさ、ひとかけらの優しさで全然違うのにな。」
黒髪少女「ほんとにね。ジュースありがと。」