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第八話

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくおねがいします。

更新頻度は非常にローペースですが、しっかり書いていきたいと思っております。

ぜひ、お楽しみにお待ち下さい。




 突如、視界の全てを白く塗りつぶす光が生まれた。何が起きたのかも理解できないまま、教室に居た誰もが身を竦め、怯み、動きを止めた。

 その数秒の後、光は収まり――復活した視界には、教室とは異なる光景が映った。


 奇妙な部屋だった。壁は古臭い西洋漆喰で、床は色味の暖かな木張り。そして床面には白い塗料で文字らしきものや図形が無数に描かれており――蒼汰も含めた、クラスの全員がその図形の中心に居た。

 そして図形を取り囲むように、黒いフード付きのローブを来た人物が並んでいる。年齢も性別もバラバラで、性別も分からないほどの老人の姿まであった。


 そのローブ姿の人々は、蒼汰達を観察しながら、口々に言葉を紡ぐ。その言語は聞いたこともない、奇妙な発音が連なる言葉だった。

 だが、何故かクラスの全員がその意味を理解できた。『成功だ』『遂に勇者様が』『ようやく魔族共を打倒することが』などと呟いているのが聞こえた。


 やがて――蒼汰達を取り囲む人垣の外側から、一人の少女が姿を現す。

 ドレス姿の、蒼汰達とさほど年の頃も変わらないであろう少女だった。

「ようこそいらっしゃいました、異界の勇者の皆様」

 そして、少女は蒼汰達を指して『異界の勇者』と呼んだ。相変わらず、その言葉自体は聞き取れず、読み取れもしない。だが、意味だけが漠然と理解できた。それはクラス中の誰もが同じ様子で、顔を見合わせたり、首を傾げたりする者が現れた。


「……あの、貴方はどなたでしょうか? それに、ここはどこなのですか?」

 クラスを代表するかのように。クラス委員である輪廻が声を上げた。

 すると不思議なことに――その言葉を言葉として理解するのと同時に、頭の中に意味の理解が響いた。言語の意味を自分で読み解くのとは別の、もう一つなにか異なる理解が並行した。


 一つの言葉に、二つの理解。その現象にクラスの全員が困惑していると、その答えをドレスの少女が口にする。

「驚かれるのも無理は有りません。皆様を召喚する際、皆様の言語を竜言語に変換するスキルを付与しておりますので」

「りゅう、言語、ですか?」

「はい。皆様の世界には存在しなかったのかもしれませんが、竜言語は意味のみを伝達する言葉です。その文字の形、言葉の発音に関わらず、言葉に込めた意味だけが伝わる言葉。文字や声そのものに意味は無く、それらを意思を持って発露することで固有の意味が宿る。そういう言語です」


 少女の言うことは、俄には信じがたいことだった。また、概念として、理屈としても難しく、未だ高校生に過ぎない少年少女には理解が伴わなかった。

 それでも、クラスの代表として矢面に立った輪廻だけは、理解する努力を必要とする。

「えっと、つまり、常に言葉を翻訳している、というような感じでしょうか?」

「皆様の世界の言葉を竜言語に『繋げる』ことで、その言語もまた竜言語たりうるのです。私たちは、召喚の際にその接続処理を自動で行いました。ですから……そうですね。翻訳、という概念もそう間違いではありません」

 少女が輪廻の解釈を大枠では肯定した為、話は次に移ることになる。


「とりあえず、言葉については分かりました。それで話は戻るのですが、ここはどこでしょうか? それと、貴方は?」

「失礼、申し遅れました。私はこの国、ヒルヴェイン王国の第一王女、メノア=ヒルヴェインと申します」

 王女、という言葉にクラス全体がざわつく。


「そしてここは、ヒルヴェイン王国王宮内の、魔術研究院の一室です。大規模な魔術の行使や実験のために使われる部屋で、皆様をこの世界に召喚する為、都合の良い場所だったのです」

「あの、何度も言われている、召喚という言葉についてなのですが」

「はい。聞きたいことはわかっています」

 勝手に頷き、輪廻の言葉を遮って、メノア王女は言う。


「ここは、皆様にとっては異世界と言うべき世界。異なる宇宙の一つ。我々ヒルヴェイン王国は、ある目的のために皆様をこの世界、異世界に連れて来たのです」

 少女の言葉に、誰もがざわつく。異世界、という言葉は、思春期の少年少女に衝撃を与えるには十分すぎた。それが嘘にしろ、本当にしろ。


 ただ――その中で、蒼汰だけは無関心であった。

 たとえ異世界であっても、本質は変わらない。自分なんて、所詮は何一つ上手く出来ないクズなのだから。

 そういう諦めがあるからこそ、ある種の余裕があった。異世界に来たところで――成功を収め、成り上がるとすれば幼馴染の遥や、妹の千里のような天才の部類。蒼汰のような凡人は、たとえ勇者と呼ばれようが大成しない。

 そんな確信を蒼汰は抱いていた。


 しかし、その確信を上回る事実が存在することまでは、想定していなかった。


「それでは、これから皆様には自分のステータスを確認してもらいます」

 メノア王女の言葉に、再びクラスメイトがざわつく。それを蒼汰だけは、他人事のように感じていた。

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