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第四話




 現地に到着後。依頼主である、町長へと面会に向かう。蒼汰だけでなく、件の男達もぞろぞろと町長宅へと向かう。

 男達は、蒼汰へ『付いてくるな』とでも言いたげな視線を向けていた。しかし、蒼汰も同じ依頼を受けた以上、依頼主との面会は省略出来ない。仕方なく、男達と行動を共にする蒼汰。


「ようこそいらっしゃいました、冒険者の皆様」

 町長は集団で現れた冒険者を見るなり。満面の笑みを浮かべて対応する。

「今回の依頼を受けさせてもらった冒険者は、これで全員だ。詳しい話は、代表して俺が訊かせてもらう」

 蒼汰を目の敵にしていた男が、代表だと名乗り出る。


「おい、あんた――」

「若造は黙ってろ。こういう時は、経験豊富な先輩に任せるもんだぞ?」

 尤もらしい理屈を語る男。町長は事情を知らない為、男の言葉に一理あると判断する。

「では、代表の方にお話しましょう。全員にお伝えするというのも手間ですので」

 町長まで男の話に乗ってしまう。こうなると、蒼汰が無理を言うと依頼主である町長の方に多大な迷惑がかかる。


「……そうかよ。じゃあ、好きにしてくれ」

 蒼汰は言い残し、町長宅を離れる。

 そんな蒼汰の背中を、男達はしてやったり、といった表情で見送っていた。

 下らない手法ではあるが。確かに、男達の手口は蒼汰の邪魔をする上で有効であった。

 だが、それでも蒼汰はさほど気にしていなかった。


 というのも――蒼汰は最初から、町長から聞く事情について、重要視していなかったのだ。

「――さて。そんじゃあ俺は俺の方で、好きにやらせてもらうか」

 そう一人で呟くと。蒼汰は街の商店通りへと向かってゆく。


 そもそも。今回の依頼は、表面上は極めてスタンダードな依頼に過ぎない。

 故に、依頼主である町長から聞ける話も、ごく当たり前の依頼で受ける説明と変わらないはずである。

 だが――もしも、依頼に何か異常な点があるならば。

 町長本人の口からではなく。町の人々から聞き出す方が、より多角的に情報を得られる。

 よって蒼汰は、町での聞き込みを行い。そして町の人々の様子を観察し、異常が無いかを観察するつもりであった。

 こうした心得もまた。かつて斥候として学んだ知識の一部である。


 当然、本来なら町長からも話は聞いておくべきなのだが。妨害を受けた以上、より価値の高い情報収集を優先するべきである、と蒼汰は考えた。また何らかの妨害行為を受ける可能性もある以上は、早く動く方が良い。


 そうして――蒼汰は商店通りを見て回りながら。冒険者向けの屋台に足を運ぶ。

 屋台で商品を買い、店主に話しかける。

「なあ。少し聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

「おう! 兄ちゃん、外から来た冒険者だろ? 何でも聞いてくれていいぜ!」

 気さくな態度の店主に、蒼汰は質問をしてゆく。


「この町の近くで魔物が増えてるからって、討伐の依頼がルートゲインまで来てたんだけどさ。どんな感じで増えてるんだ?」

「あー、やっぱそれで来てんのか。最近の森はマジでやばいらしくてな。ウチを拠点にしている冒険者じゃあもう手がつけられんぐらいになってるらしいぞ」

 店主の話から、相当な数の魔物が存在するのだと察する蒼汰。


「定期的に討伐はしてるんだろ? それでもそんなに増えてるのか?」

「ああ。実力のあるやつはどうしてもルートゲインに行っちまうからな。地元の冒険者じゃあ実力不足なんだよ」

「そうなのか。でも、それならルートゲインに定期的に依頼を出してどうにかなると思うんだけど」

 蒼汰が言うと、店主は少し難しい顔をしてから口を開く。


「……あんまりでかい声じゃあ言えねぇけどな。実はルートゲインから冒険者を引き抜いて、こっちを拠点にしてもらおう、って町長が計画してたことがあってな」

 店主は地元に住まう者だからこそ知る事情を語る。

「かなり金を使って、屋敷まで建ててよぉ。それでも結局、おじゃんになっちまってな。金だけ使って状況は変わらねぇ。そんなことになってから、色々問題ばっか起こってんだよ」

「問題……って言うと、金銭面の?」

「まあ、それもあるらしいな。ルートゲインに頻繁に依頼を出せる余裕が無いってのもあるが。他にも町内会がルートゲインの冒険者に頼るのを反対してるのもある。誘致に失敗して、裏切られたつもりになってんだろうな。地元の冒険者を支援する方向で、町長と意見が対立しててな」


 店主は随分と詳しく、事情について話してくれた。それを、蒼汰は疑問に思う。

「そうなのか。それにしても、詳しいんだな?」

「そりゃあ、ウチも町内会に関わっちまってるからな。地元の冒険者相手に割り引いて商売すりゃあ、その分の補助金が入るんだよ。だからウチも含めて、冒険者相手の店はどこも儲かっちゃいるが……それで魔物が増える事態になっちまってるのは、正直いい気分じゃねえ」


 店主の言葉から、蒼汰は凡その状況を理解する。要するに、町の政策の失敗が尾を引き、二つの派閥に分裂して機能不全を起こしている状態なのだろう。

「――なるほどな。まあ、俺も含めて、結構な人数の冒険者がルートゲインから来てる。魔物の数もじきに減るだろうさ」

「そうかい? そりゃあ助かるな」

「ああ。俺だってこれでもランクリーズの冒険者だ。安心してくれ」

「へぇ。その歳でランクリーズかい。ルートゲインの冒険者ってのは、やっぱり凄いんだな」


 そうして軽い雑談をした後、蒼汰は屋台から離れる。そして、町の状況について考えを巡らせる。

「……安心しろとは言ったけど。最悪の場合も考えとかないとなぁ」

 一人呟く蒼汰。そして目的の為――最悪の事態に備える為。ある場所へと向かって足を進めるのであった。

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