第三話
翌日。蒼汰は隣町へ向かう前に、ギルドへと立ち寄っていた。
義務があるわけではないが。それでも、依頼等で長期間離れる場合は、連絡しておくのが常である。
「ポワン。少しいいか」
蒼汰は、馴染みの受付嬢、ポワンに声を掛ける。
「どうなされました?」
「例の依頼、今日から出発する」
「なるほど。了解です。お気をつけて行ってらっしゃい」
ポワンは蒼汰に笑顔を向け。愛想よく見送りの言葉を伝えた。
だが――そんな些細なことさえ。気に入らず、不満をぶつけて来る者が居た。
「おうおう。テメェも隣町の依頼を受けるんだってなぁ?」
「……ん? ああ、そうだけど、何かあるのか?」
蒼汰に絡んできたのは。昨日、蒼汰の様子を見て妬みを抱いていた冒険者であった。
「俺らも同じ依頼を受けるからよォ。よろしく頼むぜ」
言うと。男の周りに、ぞろぞろと冒険者が集まる。ニヤニヤとした視線を蒼汰に向ける者。苛立ちをそのまま表情に浮かべている者。様々だったが、誰もが良くない感情を蒼汰に抱いている様子。
「そんで、ポワンちゃんよォ! こんな青クセェガキを特別扱いってこたぁねぇよなぁ?」
「俺様達も笑顔で見送ってくんねーかなぁ?」
さらに。男達は蒼汰だけでなく、ポワンにまで絡み出す。
「えっと……はい。皆さんも行ってらっしゃいませ!」
「気持ちがこもってねぇんだよ、気持ちがよォ!!」
ダンッ! と、受付のカウンターに拳を振り下ろす男。威圧され、ポワンはビクリと身体を震わせる。
そんな様子に――さすがに、蒼汰も見過ごせず。
「待てよ。依頼を受けたんだろ? 受付に油売ってる暇があるなら、とっとと隣町に行けよ」
蒼汰は、男の肩を掴み。ぐい、と力を込めて引き寄せる。
蒼汰の力が想定以上に強かった為――男はあっさりと体勢を崩す。
「……ちっ。調子に乗ってんじゃねえぞ、ヒヨッコがよォ」
男はそんな悪態を吐くと。他の冒険者達を引き連れ、ギルドを後にする。
「……すみません、蒼汰さん。助けてもらっちゃって」
ポワンは蒼汰に頭を下げる。それに、蒼汰は手を振りながら応える。
「気にするな。それに、あいつらは俺に文句があったみたいだからな。むしろポワンは巻き込まれた側だ」
と言って。蒼汰は出ていった冒険者達の方を睨む。
「――気を付けて下さいね。依頼中は、くれぐれも」
「ああ。分かってるよ」
ポワンの言外の忠告――彼らが依頼の只中に何らかの嫌がらせをしてくる可能性を示唆されて。蒼汰は頷くのであった。
その後。冒険者ギルドを出た蒼汰は、隣町行きの乗合馬車を探す。
馬車の停留所へと向かうと――待ち構えていたかのように、件の男達が馬車に乗っていた。
蒼汰が御者に運賃を払い。乗り込む際にも、男達の視線は突き刺さる。
「よろしく頼むぞ」
あえて。軽い調子で、蒼汰は男達に言ってみせる。
すると――挑発に乗ったのか。男達の一人が口を開く。
「おいテメェ。一つだけ言っておくがなぁ。ランクはテメェも俺たちと同格ってことだが、それが冒険者として同じレベルだって意味にはならねぇ」
「はぁ?」
蒼汰からすれば。突然、当たり前な事実を主張されて意味不明であった。
「要するに――経験の浅い、テメェみてえなヒヨッコには、まだこういう依頼は早いってことだ。トントン拍子でランクが上がって、調子に乗ってるみてぇだからな。忠告しておくぜ。テメェのレベルじゃ、この依頼は受けるべきじゃねぇ。役立たずは、さっさと降りた方が身のためだぜ」
男の言葉で、ようやく蒼汰は悟る。要するに、この男達は。あっさり同格まで上がってきた蒼汰に、自分達の方が上だと示したいだけなのだ。
そんなもの。言葉でなく、結果で勝手に示されるだろうに。と、蒼汰は呆れながらも。
「ご忠告どーも」
と、男の発言を適当に聞き流すのであった。
その後も――男達の視線は鋭く、厳しいものがあった。蒼汰を異物のように扱ったまま、乗合馬車は隣町へと向かう。
結局、到着までの数時間。男達と蒼汰の間で会話も無いまま。険悪な空気のままとなった。
スパロボ30が発売した為、長らく投稿が遅れてしまいました。申し訳有りません。