第二話
「こんにちは、蒼汰さん。本日はどのようなご用件ですか?」
「ああ、ちょっと気になる依頼があってな」
蒼汰は顔なじみとなりつつある受付嬢、ポワンへと声を掛ける。その後、例の調査依頼の依頼番号を伝える。
「ええと――ああ、これですね」
ポワンは資料に目を通しながら詳細を語る。
「なるほど。魔物の増え方が想定以上だったそうです。普段からスタンピードを防ぐために、定期的な間引きを行っているようなんですが。想定よりも魔物が減っていないので、スタンピードの可能性もあるそうです」
ポワンは深刻そうな話を、事も無げに話す。
「スタンピードって、やばい状況なのか?」
蒼汰が問うと、ポワンは首を横に振る。
「いえ。定期的な間引きが行われているんですから大丈夫ですよ。あくまでも念を入れて、という話だと思います。確実に数を減らしたいから、高ランクの冒険者に限った募集なんでしょうね」
ポワンの話に、蒼汰も納得する。街の冒険者だけでは間引きが間に合わない。故に魔物が増加傾向にある。となれば、より高位の冒険者をルートゲインから呼び、徹底的に間引くのもおかしな話ではない。
「低ランクの冒険者じゃダメなのか?」
「そっちは人員が足りているんじゃないでしょうか。より深く危険な区域の間引きの為の高位冒険者かと」
「なるほどな」
結局。聞いた話では、妙な点は無いと言えた。
「――よし。じゃあこの依頼、受けるよ」
「ありがとうございます。では、こちらで処理しておきますね。いってらっしゃい、蒼汰さん」
「ああ。少し遠出してくる」
そう言って、蒼汰は冒険者ギルドを離れた。
冒険者ギルドの外で、蒼汰はエリスと合流する。
「ソータ、依頼はどんなのを受けたの?」
「ああ。隣の街からの依頼だ。周辺の森で魔物が増えているから、それの間引きだ」
「ふーん。じゃあしばらく帰ってこないの?」
「どうだろうな。少なくとも、何日かは向こうで滞在することになると思う」
蒼汰の言葉に、エリスは僅かに表情を曇らせる。
「……頑張ってね、ソータ」
そして――蒼汰の背中に額を付けて、身を預けるようにして呟く。
「……ああ。出来るだけ早く帰ってくる」
「ううん」
だが、蒼汰の言葉にエリスは首を横に振る。
「早くなくてもいいから。無事に帰ってきてね」
「――そうだな。怪我しないよう、気を付ける」
エリスの言葉に、蒼汰は頷く。
「でもまあ――とりあえず、出発は明日だ。今日は準備だけして、ゆっくりするよ」
「うん。そうだね。アタシも今日は、拳銃の作業は休んじゃおうかな」
二人はそんなことを言いながら、家へと帰ってゆく。
そして――二人の様子を、忌々しそうに眺める者がいた。
「……けっ。調子に乗りやがって」
そこに居たのは、とある冒険者。ルートゲインでの活動も長く――最近、ようやくランクリーズへと昇格したばかりの男。
近頃の蒼汰は、異例の昇格スピードもあって注目されている。期待の新人として名高い。
その分、嫉妬や反感を買うこともある。この男も、そうした理不尽な負の感情を抱く者の一人であった。
「確か、隣町の依頼つってたな――」
そして――男は不穏な呟きを残し、冒険者ギルドへと入って行くのであった。