第一話
――老人の死後。エリスが立ち直るまでに要した期間は、一週間程であった。
それが早いのか、遅いのか。蒼汰には分からない。
だが――少なくとも、頑張った。と、蒼汰は思っていた。
最初の一日は、泣いて過ごしたエリス。だが、翌日には涙を拭い、仕事を始めた。蒼汰の依頼した、拳銃を完成させる為だ。
一心不乱に。他の全てを忘れるかのように。エリスは拳銃の製作にかかりきりとなった。
そうして――拳銃の試作品が完成する頃には。既に、エリスの表情に陰は無かった。
出来上がった代物を手に、エリスは蒼汰に頼む。
「ソータ。一応、試作品だけど完成したよ。でも――まだ構造に不安があるんだよね。耐久テストに付き合ってほしいんだ」
「ああ、分かった」
エリスの頼みに、蒼汰はすぐに頷く。
そうして二人は、拳銃の試作品を持ち冒険者ギルドに向かう。拳銃の性能を問題なくテストするには、自宅の鍛冶場や裏庭では不足していた。
訓練に使う広場の片隅にて。標的を狙い、蒼汰が射撃を放つ。
「――蒼炎弾」
つぶやく蒼汰。だが、言葉に反して状況に変化は無い。
何故なら、蒼汰が生み出した蒼炎弾は銃身の中に生み出されている。外見からは、何が起こっているかも分からない。
こうした、蒼汰の蒼炎魔法を隠し、偽装する意味でも。拳銃という装備は適したものであった。
「――じゃあ撃つぞ」
言って。蒼汰は拳銃の引き金を引く。
実際の拳銃と違い、蒼炎弾を打ち出す構造は単純である。蒼炎弾を撃鉄が刺し、穴を開ける。この穴から吹き出る蒼炎が蒼炎弾を押し出すのだ。
蒼炎球を圧縮した分もあって。蒼炎弾の推進力は十分すぎるほど強い。実在の拳銃よりも、遥かに速い弾速に至る程に。
銃口から放たれた蒼炎弾は――青い炎の尾を引きながら、的へと一直線に飛来する。
蒼炎弾が着弾すると――ごう、と爆音。蒼炎が爆発的な勢いで開放され、的を破壊し、貫き、炎で包み焼き尽くす。
用意された的は、たった一撃の蒼炎弾で消し炭と化した。
「使いやすさは問題ないな」
威力については、蒼汰自身の魔法なので既知である。故に、蒼汰がまず気にしたのは使用感であった。
グリップも握りやすく、トリガーを引く動作にも違和感は無かった。
「じゃあ、あと何発か撃ってくれる? 耐久面が一番不安だから」
「ああ、分かった」
そうして射撃テストは続く。
的を用意し、破壊。また用意して、破壊。
これを十数回ほど繰り返したところで、ついに拳銃に限界が来る。負担に耐えきれず、射撃と同時にバラバラのパーツに弾けてしまう。
「あー、やっぱりこうなっちゃったか」
残念そうに。しかし予想の範疇だったのか。エリスは納得した様子で呟く。
「でも、部品の壊れ方から察するに――どうにかする方法はあるね。大丈夫。改良すれば、実戦で使えるレベルの耐久力になるはずだよ」
「それは助かる」
「任せといて! 出来るだけ早く、完成品を渡したげるからねっ!」
エリスは自信有りげに言って、蒼汰の背を叩く。
こうして拳銃の試射は終了。二人は的の残骸を片付けた後、この場を離れる。
そして――エリスが完成品を作り上げるまでの間。蒼汰は、ギルドに来たついでというのもあり、依頼を受けて過ごすことにする。
エリスに外で待ってもらいながら。冒険者ギルドの依頼票を確認していく。
「――ん? なんだこれ」
蒼汰の目に止まったのは、奇妙な依頼であった。
『隣街周辺の森の異変の調査。ランクQ。依頼番号+QSSoI+△』
異変の調査。それ自体は普通の依頼である。但し――要求されるランクがQ、つまりランクリーズ。規格外のランクオズを除く実質的な最高ランクであること以外は。
ランクリーズ以降は、依頼をこなした数で上がっていく。故に、冒険者の実力を示す物差しとしてはランクリーズが実質的な上限である。
そんな高ランクの冒険者を、たかが森の異変の調査に求めている。
いくらルートゲインが高ランク冒険者の多い街とは言え。要求が過剰すぎる。
蒼汰は何か不穏なものを感じて――質問をする為に、受付へと向かう。




