第二十四話
日頃から、酒の飲み過ぎであった。
そんな老人は、その日。眠りにつくと、まるで緊張した糸が切れたかのように、突然心臓が止まり、死亡した。
それに気づいたのは、作業の合間に休憩を、と鍛冶場から戻ったエリスであった。
店番にも出ていない老人を呼ぶため。老人の部屋に向かう。
いつもとは異なる、静かすぎる眠り。老人の様子は、確かにおかしかった。
しかし――まさか亡くなっているとは思わずに。いつもどおり。暴言同然の言葉を交わして、エリスは老人を叩き起こすつもりであった。
しかし、老人は結局起き上がらなかった。
暫くは呆然とするばかりだったエリスも。やがて事態を理解して――老人を何度も呼びながら、涙を流す。
パニックを起こしたまま、エリスは蒼汰を探しに向かう。蒼汰なら、何とかしてくれる。根拠なく信じて、冒険者ギルドへと走った。
そして――結局、蒼汰が夕刻になって帰ってくるまで。エリスは死んだような表情を浮かべて、待ちぼうけることになった。
「――エリス?」
帰ってきた蒼汰は、冒険者ギルド内に入りまず驚く。憔悴した様子のエリスが、膝を抱えるように座り込み、蒼汰を待ち構えていた為だ。
「……ソータっ!!」
蒼汰が帰ってきたとなると。エリスは勢い良く飛び上がり、蒼汰の手を取る。
「ど、どうしたんだよ?」
「ソータ、お願いッ! お父さんを助けてッ!!」
「――っ!? 何があったんだッ!」
「とにかく、早く来てッ!!」
そうして、エリスに手を引かれるまま。蒼汰は――老人の部屋へと連れて行かれる。
結果、蒼汰が目にしたのは。すでに亡くなって時間の経った、老人の死体であった。
苦痛など、何一つ感じていないかのような表情。穏やかな死に顔。
「……くそっ。勝手すぎるんだよッ!」
やりきれない感情が溢れる。蒼汰は手を振り上げ、壁を殴って八つ当たりをする。
「……ねえ。蒼汰。助けてよ」
それでも尚。エリスは、現実が受け止められずにいた。その様相はあまりにも痛ましく。蒼汰は、慰める為にエリスを抱き締める。
「エリス。こればっかりは、どうにもならない」
「でもっ! 昨日まで元気だったのにッ!!」
「酒の飲みすぎだ。それに、いつも塩辛いもんばっかり食ってただろ。いつこうなってもおかしくない身体だったんだよ、爺さんは」
蒼汰の、ただ理屈として死の理由を並べる言葉。これによりエリスは、現実逃避すら出来なくなる。追い詰められ、自然と涙が溢れてくる。
「でも、だって」
「死んだんだよ。爺さんは」
無慈悲にも。しかし、認めなければ何も始まらない事実を蒼汰が突きつけて。
ついに、エリスは決壊した。
「――うああぁぁぁあッ!!」
溢れる感情を抑えきれずに。エリスは叫ぶような声を上げ、泣いた。
蒼汰はただ、エリスの頭を胸元に抱き寄せ。涙を、そして感情を受け止めることしか出来ない。
八つ当たりするように、エリスの手が何度も蒼汰の胸を叩く。それも、蒼汰は受け入れた。今はただ、エリスを支えるべきだと思っていた。
だからなのか。蒼汰は、自然と口を開く。
「俺は、居なくならない」
約束を交わすつもりで。蒼汰は、言葉にする。
「何があっても、俺はお前を独りにはしない。ずっと、俺が一緒にいるから。だから――」
そのまま、対価を求めるかのような言葉を口走りそうになり、蒼汰は口を噤む。
「――いや。何でもない。とにかく俺は、約束する」
それは、エリスに対してなのか。
それとも――亡くなった老人。エリスの義理の父親。
グレンガッツ・コニファーの為なのか。
蒼汰自身にも分からなかったが――ただ、絶対に約束は守る。という気持ちだけは、間違いのないものであった。
一挙連続投稿最終日です。
宜しければページ下部の方から、他著者の一挙連続投稿作品までお読み頂けると有り難く思います。
また当作品は今回で連続投稿を終了し、次回の投稿は9/15を予定しております。
ポケモンユナイトをやりすぎた為ストックが足りず申し訳有りません。
無事ソロマスター達成は出来ておりますので、今までどおりの隔週投稿は続けられるかと思います。
そして、次回の投稿で第三章は終了です。
次次回からは第四章となり、蒼汰の運命の歯車が大きく動き始めます。
是非、お楽しみにお待ち下さい。