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第二十一話




 その後――エリスにより、無事化石金属の採集に成功した二人。

 となればアリアス廃坑道に用は無い。二人はルートゲインへと帰還することとなった。

 坑道内での『トラブル』があった為、帰路の初日こそ僅かばかり妙な空気が流れたものの。以後は普段どおりの態度で、互いにコミュニケーションを交わした。


 そうして、行きと同じ日数を掛けて、蒼汰とエリスはルートゲインへと帰還した。

 帰還した翌日には、早速装備の制作が始まる。まずは、化石金属に『火傷耐性』を付与する作業。それなりに数を採集して来た為、この作業は四日ほど掛かった。

 そうして付与が終了すれば、後はエリスの作業のみ。蒼汰は、ただ完成を待つだけとなる。


 拳銃の完成を楽しみに待ちながら――蒼汰は冒険者としての活動に勤しんだ。

 この日も、ルートゲイン周辺の草原に出て、魔獣狩りを行う。蒼汰にとっては最早慣れ親しんだ、何の脅威も感じない土地。草原と言うには岩で荒れており、荒野というには草木がしっかり茂っている。そんな場所で、特に目的も無く、売れば金になる素材の取れる魔獣を適当に探す。


 そうしてフラフラと行動しながら、蒼汰はあることを考えていた。

(……柔らかかった)

 そう。エリスとのトラブル。キス事件について。すなわち煩悩である。

 悲しいかな、蒼汰にとって身体的接触を伴う女性との交流経験は刺激が強すぎたのだ。

 身体的接触を伴わないなら、慣れている。妹、そして幼馴染。容姿の優れた女性に囲まれて育った蒼汰は、多少の経験値があった。


 だが、キスともなれば未経験。経験値の無さ。そして――無自覚に積み重ねていた、エリスへの好意。これらが重なり、蒼汰自身にもコントロールが出来ないほどの衝撃となっていた。

 結果、少しでも気を抜くと、坑道内での出来事を思い出してしまう。そして、煩悩に意識が支配され、顔が赤くなる事案発生。

 誰かがこんな蒼汰の様子を見れば、完全に病気であると診断するだろう。恋の、と頭に付けて。


 しかし幸か不幸か。蒼汰はソロで活動する冒険者。他人の視線の無い場所だからこそ、この失態。よって誰にも気付かれること無く、表情をだらしなく緩めていた。


 やがて蒼汰は魔獣の気配を察知し、気を引き締める。それほど大きくない魔獣。ルートゲイン周辺では、最弱と呼べる程度の存在。

 ホーンラビット。角の生えた、犬程もある大きさの兎。世界中あらゆる土地に生息する魔獣の一種を、蒼汰は目視でも確認する。

 ルートゲイン周辺のホーンラビットは非常に強く、豊かな自然の中で育つため上品な味わいの赤身肉に育つ。弱さ故に冒険者から逃げ隠れする術にも長けており、討伐して売れば程々の金になる。


「――蒼炎弾」

 蒼汰は小さく呟き、蒼炎魔法を発動。蒼炎球を小さく圧縮し、ビー玉よりも更に小さく固める。そうして生まれた蒼炎魔法を、蒼汰は蒼炎弾と名付け、愛用している。

 これを――蒼汰は、投げるような予備動作も無く発射。直後、蒼炎弾はスリングか何かで発射されたかのように飛ぶ。


 いくら逃げ足の早い魔獣と言えど。高速で飛来する、不意を打つ魔法には無力。

「ギュッ!!」

 ホーンラビットの頭部を貫く蒼炎弾。断末魔を上げ、ホーンラビットは絶命する。蒼炎弾はホーンラビットの脳を貫き、焼いて炭に変え、消失。高く売れる肉には傷すら付けること無く、討伐に成功。


「……よし、まあこんなもんか」

 蒼汰は満足し切っていない様子で呟き、ホーンラビットの方へと歩み寄る。

 蒼汰の不満は、蒼炎弾の速度にあった。現状でも、蒼炎弾は程々の速度で発射できる。元々、ファイアーボールは人間が投擲する程度の速度しか出ない魔法なのだ。それが蒼炎球となり、さらに蒼炎弾となったことで。圧縮した影響もあるのか、速度はスリングで発射するのと同程度まで上がっている。


 だが、まだ足りない。より強い敵を屠るには、蒼汰の目でさえ捉えられない速度で『撃つ』必要がある。

 スリング程度なら――今の蒼汰なら『見てから回避』が出来るのだから。


 そうしてホーンラビットの回収も済み、蒼汰の思考はまたエリスの唇の感触に支配される。脳内桃色の蒼汰。

 そうこう思考を巡らせている内に。蒼汰は一つの結論に至る。

(……言葉で言うなら。この感情は、簡単に一言で言ってしまえるんだろうな)

 好きだ。蒼汰は、自分の思いを表現するならその言葉になるだろうと思った。


 しかし――自覚すると、今度は厄介にも理性が邪魔をする。

 いや、正確に言うならトラウマが、である。


 見捨てられたらどうしよう。裏切られたら。自分からの一方通行だったら。

 そんなネガティブな感情が沸き起こる。そして……理性は究極の結論を導く。

 やはり、リスクは背負えない。

 だったら、やっぱり俺は一人でいい。

 それが蒼汰の導く結論。


 だが、どれだけトラウマが深く突き刺さっていたとしても。

 蒼汰の心が訴えてくる、本能的な欲求を誤魔化すことは出来ない。

 故に蒼汰は迷う。誰も信じたくない。本当の、根っこの部分では自分以外誰もいらない。そう思いたいのに――エリスは、違うと、なんとなく思ってしまう。


(――エリスは、今までの人とは、違うんじゃないか)

 理屈だけで解決出来ない感情によって。蒼汰はそんな可能性も、ふと疑ってしまう。

 そんなこと、あるはずが無い。ありえないと思っているのに。

 幼馴染は自分を好いてはいなかった。妹には騙された。父と母は信じてくれなかった。誰も、自分の怒り、苦しみを認めて、許してはくれなかった。


 だから、蒼汰は分かっている。

 分かっている、つもりであった。

 今抱いている感情など――所詮は一時の気の迷いでしかないのだと。

一挙連続投稿六日目です。


宜しければページ下部の方から、他著者の一挙連続投稿作品までお読み頂けると有り難く思います。

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