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第十九話




 ――その魔獣は、己の縄張りに異物が入り込んでいることを理解していた。


 アリアス廃坑道。その浅層全てを縄張りとする魔獣。己の餌となる魔獣や魔物だけを残し、適度に餌として刈り取って生きている。故に、廃坑道の浅層には強い魔獣、魔物が少なかった。そういった存在は、この魔獣の縄張りを避け、より奥に生息している。

 つまり――その魔獣こそが、この浅層のボスであると言えた。


 だがある日。そんなボス魔獣の平穏を脅かす何者かが現れた。餌として生かしているはずの魔獣や魔物。それらの数が、急激に減っている。予想外の出来事に、ボス魔獣は怒りのような感情を覚えた。

 そして、餌を勝手に殺した不届き者は、着実に自分の方へと近づいている。

 ならば。相応の報いを。それがボス魔獣――巨大蜘蛛の魔獣、ケイブスパイダーの考えであった。


 一方で――侵入者、つまり蒼汰とエリスの方は。単純な作戦を立て、敵たるケイブスパイダーを待ち構えていた。

 手頃な魔獣を傷つけ、身動きを取れない状態にして坑道に放置。悲鳴のような鳴き声をギチギチと上げる虫の魔獣。その騒ぎは、間違いなく蜘蛛の魔獣にも届くだろう。そう考えての釣り餌作戦である。


 そして――蒼汰の予想通り。ケイブスパイダーが、その場に姿を表した。

 だが、蒼汰の予想は僅かに外れる。ケイブスパイダーは、餌に食いつかなかった。何かを探すように、周囲に視線を向ける。

 明らかに、何かが隠れていることが分かっているような様子。蒼汰は、ケイブスパイダーが餌ではない『何か』を求めてこの場に来たことを悟る。


 そして『何か』とは。この場では、明確。蒼汰とエリスの二人以外に有り得なかった。

「――ギチチチチッ!!」

 苛立っているようにも聞こえる鳴き声を、ケイブスパイダーは上げる。そして、癇癪でも起こしたかのように、八本の足を乱雑に振るい、周囲を手当たり次第に破壊する。


 その破壊力は極めて高い。釣り餌として放置されていた魔獣も巻き込まれた。結果、バラバラの肉片に砕け散ってしまう。

 並みの人間が相手であれば。足一本で軽く殺せるだろう。それだけ、強力な魔獣であった。


 だが――残念ながら、蒼汰は一般人とは隔絶した能力がある。

 現時点でもケイブスパイダーに見つかっておらず、虎視眈々と機会を狙っている。それもまた、蒼汰の実力が優れていることの証明である。


 一方で。暴れまわっても、姿を見せない敵に、ケイブスパイダーはいよいよ警戒を強める。この辺りに敵が潜んでいる。それはケイブスパイダーが縄張りに張り巡らせた『巣』の破壊の痕跡からも明らかだった。

 しかし、これだけ暴れても敵の姿は見えない。どこに隠れたのか。それとも、逃げ出したのか。さほど高くない魔獣なりの知能で、ケイブスパイダーは考える。


 そして――この困惑が。疑念が。動きを鈍らせ、隙となる。

 蒼汰の狙っていた好機が訪れた。


 次の瞬間。――ケイブスパイダーの背中に衝撃が走る。何かが、落下してきたのだ。

「――悪いな。これでチェックメイトだ」

 そう。坑道の天井に――崩落を防ぐ為に築かれた『梁』に手足を掛け、隠れていた蒼汰であった。

 坑道の土を服や顔に擦り付け、匂いまで消す徹底ぶり。汚れて地味になった蒼汰は、明かりの無い坑道、その天井の、梁に身を隠すことでケイブスパイダーの索敵から逃れていたのだ。


 そして警戒を強め、周囲を見回し――蒼汰に背を向けた瞬間。梁からケイブスパイダーの背中へと飛びかかった。

 蒼汰は片手でケイブスパイダーの足の一本を掴み。暴れるケイブスパイダーの背に張り付く。

「さて、そんじゃあまず一本ッ!」


 言って、蒼汰は腰に佩いたナイフを抜き、ケイブスパイダーの足の付け根に向けて突き刺す。捕まっている足とは、別の足である。

 ナイフは足の付け根、関節の隙間に突き刺さる。蒼汰のステータスの高さ故に。ケイブスパイダーの足は、アッサリと引き千切られる。


「ギチチチッ!!」

「そんなに喜ぶなよ、あと三本もあるんだから、なッ!」

 悲鳴を上げるケイブスパイダー。それに構わず、蒼汰はさらに別の足の付け根を狙う。一本目と動揺、深く突き刺さったナイフが筋肉を切り裂き。蒼汰の膂力が足を千切って引き剥がす。


 そのまま繰り返し、三本目。そして捕まっている四本目の足にまで、蒼汰のナイフが突き刺さる。

 ケイブスパイダーの抵抗も虚しく、片側の足四本。全てが落とされ、身動きが取れなくなる。

「――片側だけじゃあ、芋虫みたく這いずり回るのが精一杯だろ?」

 蒼汰は、言いながらケイブスパイダーにナイフを向ける。言葉通り、片方の足を全て失い、ケイブスパイダーはバランスを崩していた。立ち上がることなど無論出来ない。残る四本の足を使って、腹ばいのまま身体を引きずる程度のことしか出来ない。


 蒼汰は警戒を解かぬままケイブスパイダーへと歩み寄る。そしてナイフを勢い良く振りかざし――頭部へと突き立てる。

「ギイイイィィィッ!!」

 致命的な部位を損傷し、ケイブスパイダーは断末魔を上げる。その後もビクリ、と何度も身体を跳ねさせ、数分は動き続けた。が、致命傷を受けた以上、復活はありえない。

 やがてケイブスパイダーの動きは小さくなってゆく。最期にはピクリ、と僅かな身動ぎをして。全く動かなくなり、完全に絶命する。


 無事、蒼汰の勝利である。

一挙連続投稿四日目です。


宜しければページ下部の方から、他著者の一挙連続投稿作品までお読み頂けると有り難く思います。

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