第十六話
アリアス廃坑道に到着した蒼汰とエリス。二人は手早く準備を済ませ、早速探索に向かう。
廃坑道とは言え、かつては人の手が入った場所。故にある程度は歩きやすいかと、蒼汰は想像していた。
だが――想像以上に年月による劣化。そして魔物の活動による破壊が激しかった。
最早坑道は、洞窟と呼んで差し支え無いほど荒れ果てていた。
「ここが、入り口か。ただの洞窟にしか見えないな」
「それだけ手つかずだったってことでしょ? 奥に行けば、ちゃんと良い化石金属が見つかるはずだよ」
「そうだな、行こう」
こうして、蒼汰とエリスは廃坑道へと突入した。
坑道内は、照明等も無く暗い。蒼汰は荷物の中から、カンテラを取り出す。魔力で動く魔道具であり、こうした明かりの無い場所の探索には欠かせない代物。
「悪いけど、エリス。これ持っといてくれるか?」
「おっけー」
そして、エリスにカンテラを渡す。戦闘要員が蒼汰だけであるため、両手が空いている状態を維持したかったのだ。
そのまま奥へと進むに連れ、入り口付近の外から来る明かりが見えなくなる。すぐにカンテラの明かりだけが周囲を照らす状況になる。
ある程度進んだところで、蒼汰がジェスチャーで止まれと指示を出す。エリスがカンテラを持ったまま立ち止まる。すると、蒼汰は不意にしゃがみ込み、足元を調べ始めた。
「何してるの?」
エリスの素朴な疑問に、蒼汰は答える。
「魔獣や魔物の痕跡を調べてる。足跡だったり、餌を食べた痕跡だったり。糞があれば、それも相手の大きさや数なんかを推測出来る」
気配に気を配るだけでは、足りない。全ての情報から、先の状況を精査し役立てる。それが、蒼汰がかつて斥候として学んだ技術の一つであった。
特に、こうした狭く暗い場所では不意打ちを受ける可能性も高い。敵の存在をより早く、正確に察知出来るのは極めて有効だ。
「それと、会話は静かに、最小限にな」
「うん、分かってる」
改めて。これまでに何度も蒼汰から受けた忠告に、エリスは頷く。
しばらくその場で蒼汰は調査を続けた。エリスは飽きもせずに、蒼汰の様子を眺める。
(……結構、本格的にプロって感じ)
想像以上に『プロフェッショナル』な蒼汰の姿を見て。エリスは感心していた。冒険者と言ってもピンキリ。蒼汰のように、単独で戦闘能力が高く、斥候技術も優れた者はそう多くない。エリスも素人ではあるが、その程度のことは知っている。
改めて、蒼汰という存在の大きさを感じる場面となった。
そうしている内に。蒼汰の調査は終わり、立ち上がる。
「まだまだ奥に行かないと、強い魔獣や魔物は居なさそうだ。少し早めに奥へ行ってもいいだろう」
「了解、ボスっ」
「何だよボスって」
「じゃあ、リーダーっ」
「冗談もいいけど、静かにな」
エリスの気の抜けるような態度に、蒼汰は苦笑を漏らした。
そのまま、蒼汰とエリスの探索は進む。入口付近では、纏まった量の化石金属など得られるはずが無い。とうの昔に掘り尽くされているだろう。
故に、目的の為に奥へ向かってゆく。時折近づく魔獣、魔物の気配に警戒しながら。慎重に、しかし素早く。
「――エリス」
「ひゃっ!?」
突如。蒼汰はエリスを呼びながら、勢い良く抱き締める。急なことで、エリスは緊張する。蒼汰がまさか、いきなり発情したのか、と妙な疑いを持つ。
が、それも一瞬のこと。直後に天井が僅かに崩れる。エリスの立っていた場所へ、落石が降り注いだ。
(あー、うわ~。そういうことかぁ。恥ずかしいっ!)
勘違いしていたことを理解し、エリスは顔が赤くなる。
「あ、ありがと。ソータ」
「いい。普通は気付かないもんだ」
ステータスの高い蒼汰だからこそ、微細な崩落の予兆を感じ取れたのだ。エリスが恥ずべき場面ではない。
だが。蒼汰はそれでも、エリスが赤くなったのは、落石を回避できなかった恥が理由だと思いこんでいた。
安全を確認してから、蒼汰はまたエリスを離す。そうして、また奥を目指して足を進める。離れる蒼汰の身体を、僅かに名残惜しく思ったエリスだが。すぐに頭を横に振り、蒼汰についていく。
(だからっ! アタシとソータはそういうんじゃなくってっ! ただの協力者っ!!)
自分に言い聞かせるかのように。エリスは頭の中で強く唱えるのだった。
事前に告知もしていましたが、本日から一挙連続投稿が始まります。
宜しくお願い致します。
宜しければページ下部の方から、他著者の一挙連続投稿作品までお読み頂けると有り難く思います。