第十四話
老人が酒を取りに行っている間に。蒼汰は、以前から話そうと思っていた話題を口にする。
「なあ、エリス。実は、頼みたいことがあるんだ」
「ん? どんな?」
「作って欲しい武器がある」
蒼汰は言うと、武器の説明を始める。
蒼汰が説明したのは――地球における『銃』のような武器であった。
ただ、厳密に言えば銃そのものではない。飛ばすのは鉛玉ではなく、蒼炎魔法。要するに、銃の機構、構造を利用して、より高速、高精度で蒼炎魔法を打ち出そうというのだ。
その狙い。そして具体的な構造についても話を聞いて、エリスは唸りながら口を開く。
「うーん。作れなくはないと思うけど。問題が一つある」
「問題?」
「ソータの魔法の威力、反動に耐えられるぐらいの強度が必要なんだよね」
エリスの言う問題点。それは蒼炎魔法の威力に理由があった。
蒼汰が現時点で考えているのは。まず蒼炎球を圧縮し、蒼炎弾に。これを銃身に込める。それも二発。一発は弾丸に。もう一発は弾丸を射出する爆薬に。
銃身の中で片方の蒼炎弾を破裂。その爆発力で残る蒼炎弾を射出する。これが、蒼汰の考える『銃』の使い方だった。
熱は火傷耐性があれば問題ない。故に、金属で銃身を作ることが出来れば問題ない、と蒼汰は考えていた。
しかし、そう上手くはいかない。
「いくらソータの火傷耐性が優秀でも、狭い空間で起こる爆発の衝撃は計り知れない。どんなに鍛えた鋼でも、ソータの魔法の爆発の衝撃に耐えるのは難しいよ。一発、二発ぐらいなら問題なくても、くり返し使う毎に歪んでいく。そうなればもう、ソータが言ってたような使い方は出来ない」
「なるほど、じゃあ素材が重要になるってことか」
エリスの言葉を受け、蒼汰は考えを修正する。
「でもなぁ。そう考えると、蒼炎の破壊力に耐えられる金属ってことだろ? 厳しくないか?」
そう。蒼汰は、自身の魔法の破壊力をよく理解している。
蒼炎球――火炎魔法のファイアボールを暴走させた蒼炎魔法。これをさらに圧縮して生み出した、蒼炎弾。その爆発力は、本来のファイアボールを遥かに凌ぐ。
爆発力だけで巨岩を粉々に粉砕するだけの威力すら発揮できるのだ。例え、ミスリル等の高度な魔法金属であっても耐えられはしないだろう。それこそ、オリハルコン等のような、伝説に名の上がるような魔法金属でもない限り。
「――ところがどっこい! あるんだなぁ、これが!」
そこで、エリスが話を覆す。
「条件は硬さ。爆発で形状が変形しないこと。これに適した金属が取れる場所があるんだよね」
「本当か!?」
「うん。化石金属、ていうんだけど。ソータは聞いたこと、無いよね?」
エリスの確認に、蒼汰は頷く。
「大昔の魔獣や魔物が化石になった時、種類によっては皮膚とか角、爪なんかに金属を含んでいることがあるんだ。それに、周辺の土壌から金属が『染みて』いく場合もある。どちらにせよ、長い年月を掛けて、魔獣や魔物の素材と金属が融合を果たした素材。それが化石金属って呼ばれてるんだ」
「そんなものがあるのか」
「うん。中には伝説のオリハルコンやアダマンタイトにも勝ると言われるぐらいに頑丈な素材もあるぐらいなんだよ」
エリスの説明によると。つまり化石金属の中でも、蒼汰の魔法に耐えうるだけの頑丈なものを探す。そうすれば、全てが解決するということになる。
だが、しかし。
「さすがに、それは都合が良すぎないか? なんで、そんなに便利なものがどこでも利用されていないんだ?」
そう、懸念点はそこだった。優れているのに、誰にも利用されていない。
つまり、それだけの理由がある、ということにもなる。
「ご明察。ソータの言う通り、化石金属は弱点がある」
「……それは?」
「よく燃えるんだ。しかも、含まれる金属が原因なのか、真夏の炎天下に置いとくだけで発火するぐらい燃えやすい。一度燃えると、燃え尽きて灰になるのも一瞬。激しく燃えてゴミになる。だから、誰も使ってない」
「なるほど」
蒼汰は納得する。つまり、マッチのような素材なのだろう、と。そのような性質を持つ物質では、危険すぎて普及しないのも違和感はない。
「でも、アタシたちは違う。ソータの『火傷耐性』。それにアタシの『スキル付与術』がある」
「俺たちなら、燃えない化石金属を生み出せる、ってことか」
「そういうこと!」
これで、ようやく蒼汰も理解する。
「なら、やるべき事は決まったな」
エリスも頷き、宣言する。
「うん。取りに行こう――化石金属っ!」