第十二話
「――ただいま」
蒼汰は帰宅した。今の己が帰るべき場所、エリスの切り盛りする鍛冶屋に。
「おかえり、ソータ」
入ってきた蒼汰を見て、ちょうど店番をしていたエリスが笑顔で迎え入れる。
「今日は嬉しい報告がある」
蒼汰が言うと、エリスは瞳に期待の色を浮かべて見つめる。
「ランクリーズに昇格した」
「やったっ! おめでとう、ソータ!」
蒼汰が内容を口にした途端、エリスはカウンターから飛び出して蒼汰に飛び付いた。
蒼汰はエリスを受け止め、しっかりと抱き締める。互いに恥ずかしくなる程に抱き合った後、自然と離れてからエリスが口を開く。
「早かったね、ソータ」
「ああ。頑張ったから」
「嬉しい」
「まあ、俺の為にもなるし」
「またまたぁ、照れちゃってもうっ」
照れ隠しのように言った蒼汰の頬を、エリスはつんつん、と指で突いてからかう。
「でも。これでアタシたちの目標にまた一つ近づいたね」
「そうだな」
そう語り合う二人の瞳には、どこか仄暗い炎が灯っていた。
だが、そんな様子もすぐに鳴りを潜める。
「それじゃあ、今日は早速お祝いだね♪」
「いや、そこまでしなくても……」
「いいのっ! アタシがソータをお祝いしたいんだから!」
楽しげに言って、エリスは奥へと姿を消していく。
「お店、閉めといてぇ~っ!」
店の奥――居住スペースの方から、エリスの声が響く。
「はぁ。分かったよ」
ため息を零しながらも、笑みを浮かべて。蒼汰は鍛冶屋の閉店作業を代わりに行う。
外に出て、営業中という文字の書かれた看板を裏返して準備中に。店の中に戻ると、展示している商品を片付ける。動かせないほど大きいものには布を掛ける。主に鎧や大剣等の類である。
エリスの経営するこの鍛冶屋は、武器だけでなく生活用品も販売している。武器は基本的に受注生産。安上がりな数打物もあるが、多くは注文を受けてから作る。
一方で生活用品の金物は殆どが数打物。受注生産をすることはほぼ無く、店に展示してあるものと同じ商品を販売している。
割合で言えば、店には武器三割、生活用品七割といった具合で展示されてある。が、一方で売上になると逆。武器は単価が高く、蒼汰が冒険者相手に宣伝していることもあり、よく売れている。
そんな店の様子を眺めながら閉店作業を済ませたところ。店の奥から、誰かが歩いてくる音が聞こえた。
「なんだ、爺さんか?」
蒼汰は、すぐにその正体に感づいた。
「なんで分かるんだよ、気持ちわりぃな」
「そりゃ分かるだろ。エリスはアンタほど静かじゃないからな」
言い合いながら、エリスの親であろう老人は店へと入ってくる。
「騒がしくて、目が覚めちまったじゃねぇかよ。どうしてくれるんだ?」
「まあ待ってろよ。エリスがお祝いに、良いもの食わせてくれるはずだぞ」
「あぁん? そりゃあどういう」
老人が疑うような声を上げると同時に。蒼汰は自身の冒険者証――ランクリーズと表記されたカードを掲げる。
「昇格祝いだよ」
「はぁん、そういうことか。あのエリスがなぁ、色気づきやがって」
「そういうんじゃないだろ。単に祝ってくれるだけだ」
「何の気もねぇ男をわざわざ祝ってやるような奴じゃねぇだろ」
老人に言われて、蒼汰は言葉に詰まる。
「……俺とエリスは、協力関係にあるだけだ」
「はっ、そうかよ」
老人は鼻で笑うと、また奥へと歩いて行く。
「いつまでそうやって、誤魔化していられるか観物だな」
そう言い残して、また居住スペースの方へと姿を消した。
そんな老人を見送った後。店仕舞いを終えた蒼汰は、店内で一人呟く。
「――そういうんじゃ、なかったんだけどな」
想定外だ、と言いたげな声は、やたらうるさく店に響いた。
追記:ポケモンユナイトが来たので投稿遅れます。