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第十一話




「おめでとうございます、蒼汰さん! ランクリーズに昇格です!」

 冒険者ギルドにて、アサシンエイプの素材を納品し、報酬を受け取った直後。受付を担当した職員の女性に、そう伝えられる。


「……なんか、早くないか?」

 と、蒼汰は尋ねる。冒険者ランクは、ランクアズから始まる。ディーズ、トーズ、シーズ、リーズと続き、そこまでは依頼達成内容の実績から判断され、実力によりランクが上がる。そこから先は積み重ねた実績の量による昇格となる。


 確かに蒼汰は、幾度となく高難易度の討伐、貴重な素材の納品を達成してきた。しかし、だとしてもランクリーズは早い。評価基準上で言えば、ランクオズという規格外を除けば冒険者として最上位の実力を示すものなのだから。

「ルートゲインでは特別なんです。冒険者さんが多すぎるので、明らかに優秀な方は、成績次第でどのランクでもサクサク次のランクに上がれるんですよっ!」


 楽しげに語る女性職員。名をポワンと言い、兎獣人の素材買取受付担当である。蒼汰が納品する素材の希少さに喜び、そして初期は状態の悪さに苦言を呈して助言をしてくれた者でもある。

 蒼炎のコントロールが甘かった頃。幾度と無く焦げた素材を納品してきた蒼汰。その頃にポワンから受けた剥ぎ取りの注意点、講義は、今でも役に立っている。


 そんな、真面目で職務に忠実なポワンが言うのだから、嘘や冗談ではないのだろう。と、蒼汰も納得する。

「ああ、分かったよ。ありがとうな、ポワン」

「お礼は私ではなく、サブマスターにおっしゃってくださいね!」

 ギルドマスターとは、いわばギルドの社長のような存在。そんなギルドマスターの補佐、を務めるのがサブマスターである。


 ルートゲインでは、ギルドマスターは多忙であり、冒険者に目をかける時間が取れない。その為、サブマスターが存在する。

 ルートゲインの冒険者ギルドの場合、東西南北の入場門それぞれの近くに支部が存在する。よってそれぞれの支部、そして本部である蒼汰の利用するギルドで、合計五人のサブマスターが、ルートゲインには存在することになる。


 蒼汰と面識があるのは、当然本部のサブマスター。エルフと呼ばれる種族の女性であり、外見によらず高齢である為、年齢を尋ねると怒る。

 初対面での蒼汰が、エルフへの先入観からやはり高齢なのだろう、という考えから年齢を尋ねてしまい、機嫌を損ねた。以来、良くも悪くも注目されていた。

「ネールさんが推薦してくれたのか? それなら、今度会った時に感謝しとくよ」

 言って、蒼汰はサブマスターのエルフ、ネールへと感謝する気があると示した。


「そうしてください。きっとサブマスターも喜びますよ!」

 言って、ポワンはにこにこと笑みを浮かべた。

「――ついにランクリーズになったのね、蒼汰っ!」

 そんなところへと、割り込むように話へ入ってくる女性が一人。蒼汰の背中をバンッ! と叩きながら話しかける。


「痛いぞ、エイダ」

「そんぐらい、我慢できるでしょ、男なんだから!」

 バシバシ、と蒼汰の背を叩く女性、エイダ。ルートゲイン所属の、ランクリーズの冒険者であり、剣士でもある。

 ある日、蒼汰により危険な状況を助けられて以来、蒼汰のことを気に入っている先輩冒険者である。また、蒼汰を狙っているのでは、と他の冒険者に噂される程度には、やたら蒼汰とばかり絡みたがる。態度も気さくで明るい。


 が、蒼汰は何一つ気にした様子も見せず、エイダの話に乗る。

「痛いもんは痛いだろ。エイダだって、あの時は痛くて泣きそうな顔してたし」

「ぬっ! それを言われると反論できねーな。まあ、ともかく昇格はめでたいな! ようやく私とも同格になったわけだし、いっちょパーティでも組んでみる?」

 自然を装って提案するエイダ。だが、蒼汰の反応を露骨に気にしており、周囲から見ればバレバレであった。


 エイダの提案には、蒼汰は首を横に振った。

「悪いな。俺はどうしてもソロでやりたいんだ。たまに仕事を共同で受けるぐらいならいいけど、恒常的にパーティを組むのは勘弁してくれ。

「むぅ。まあ、蒼汰がそういうのは分かってたけどさ」

 露骨にしょんぼりとするエイダ。こうした態度を取るせいで、蒼汰に気があるのでは、と噂されるのである。


 そんなエイダを慰めるように、ポワンが声を掛ける。

「まあまあ、エイダさん。そんなことよりも、せっかく今日はめでたく蒼汰さんが昇格した日ですし。ここは一緒にパーッとお祝いするというのはどうですか?」

「ふむ、いいなそれは! 私もちょうど、なんだかガーッと飲みたい気分だったしな!」

 フラれた自棄酒だな、と周囲の誰もが思った。


 だが、残念ながらこれにも蒼汰は首を振る。

「悪いな。記念日は、真っ先に報告するつもりの相手が居るんだ」

 言って、蒼汰は冒険者ギルドを後にする。


 その背中を見送りながら、エイダは小さく呟く。

「……うぅん。やっぱり、鍛冶師の鱗人族には勝てないかぁ」

「めげちゃダメです、エイダさんっ! きっと、まだまだチャンスはありますから! 一緒に頑張りましょう!」

 ガッツポーズをして、エイダを励ますポワン。この兎獣人の少女もまた、態度が露骨であるため、周囲に噂されているのであった。

今回のすれ違いヒロイン達。

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