第十話
翌日から――蒼汰はルートゲインにて、本格的な冒険者活動を開始した。
普段は隠すように使うことを控えていた蒼炎を、積極的に使ってゆく。
そうして強力、凶悪な魔獣、魔物を討伐し、冒険者としての実績を重ねていった。
この日も――蒼汰は、討伐難易度の高い魔獣を狩るため、森へと足を運んでいた。
「……そろそろか」
ルートゲインから少々離れた位置にある森の中。木々が鬱蒼としており、木陰も多く、薄暗い。
そんな森の中を歩きながら、蒼汰は周囲に意識を向け、警戒していた。
やがて――標的となる魔獣の気配を感じ取る。
「――くる」
呟き、同時に蒼汰は――蒼炎化を発動する。
これまで、幾度となく蒼炎を扱い、練度を高めてきた。その甲斐もあり、蒼汰は自身の身体の一部分のみを蒼炎化させることに成功。
今回も、蒼汰は足だけを蒼炎化。機動力を高め、瞬時に移動する。
直後。蒼汰が先程まで立っていた場所に――斬撃が降り注ぐ。
「キキャァァッ!!」
続いて、甲高い猿の叫び声。
この魔獣は、アサシンエイプと呼ばれている。森を静かに移動し、獲物を静かに狩ることからそうした名が付いた。鋭い爪から放たれる、魔法的な力も籠もった引っ掻き攻撃は、人間の首程度であればたやすく切断する。
単体でも、クロウベアのような魔獣と同格か、それ以上とされる。そんなアサシンエイプだが――深い森では群れを作り、集団で獲物を仕留める習性がある。
「ギイィッ!!」
「ケキャッ! ケキャアッ!」
蒼汰の周囲で、アサシンエイプの鳴き声が幾つも響き渡る。四方八方から聞こえる鳴き声。迂闊な獲物であれば、これに混乱し、注意が散漫となる。
だが――蒼汰は集中力を切らすことは無かった。
「……フッ!!」
次の瞬間、蒼汰を狙って来たアサシンエイプに合わせ、腰に装備していた短剣を抜き、これを突き刺す。
正確に、アサシンエイプの喉へと短剣は突き刺さる。――同時に、蒼炎が燃え上がる。
蒼汰が発動したのは、蒼炎撃。腕を包む蒼炎が、刃を伝ってアサシンエイプへと燃え移ったのだ。
「キギュァァアアッ!!」
アサシンエイプの断末魔が響く。蒼炎はアサシンエイプの頭部を焼き、傷口から首の内側を焼いて――そこで炎が収まる。
幾度とない蒼炎による戦闘経験により、蒼汰は火力の調整、そして延焼範囲の調整まで可能となっていた。
今回の蒼炎撃も、調整をした結果、ちょうどアサシンエイプを絶命させる程度で収束した。出力に関しては一割程度。延焼範囲は極めて狭く絞っており、無事アサシンエイプの死体を不必要に傷つけずに済んだ。
思わぬ反撃に遭ったアサシンエイプの群れに、動揺が広がる。だが、最早手遅れである。
一匹仕留めた直後、蒼汰は蒼炎化した足で駆け、次の標的を狙っていた。
「――ハァッ!」
木の上、葉の陰に身を隠していたアサシンエイプに、木の幹を蹴って飛び上がり、近づく。そのままの勢いで短剣を振る。再び刃を覆う蒼炎。
アサシンエイプは悲鳴を上げる間もなく、首を切り落とされ、絶命。
「ケキャアゥッ!!」
怒りの声を上げ、アサシンエイプ達は蒼汰への反撃を試みた。三匹のアサシンエイプが、同時に蒼汰へと襲い掛かる。
だが――蒼汰は空中で身を捩り、反撃を繰り出し、その反動でさらに次の攻撃を回避し――という連携により完全にいなす。
蒼汰へと襲いかかった三匹は、何の成果も上げぬまま、死体へと変貌した。
こうなると、最早アサシンエイプ側にも蒼汰を襲う理由が無い。群れは次々と、この場を脱走してゆく。
「――待ちな」
蒼汰は言って、蒼炎球を発動。圧縮し、蒼い輝点になるまで縮め、これを複数生み出し、飛ばす。
逃げるアサシンエイプの背を貫き、燃え上がり、さらに複数のアサシンエイプを仕留めることに成功。
だが群れの全てを仕留めるには至らず。最終的には、合計九匹のアサシンエイプがこの日の狩りの成果となった。
「ま、こんなもんか」
言って、蒼汰は蒼炎化した足に送る魔力を止める。すると、程なくして脚部の蒼炎化も収まる。無駄に魔力を送り、蒼炎化を不必要に長引かせてしまうという欠点も克服していた。
その後、蒼汰はアサシンエイプの討伐証明部位、左手首より先を切り落とし、収納。他にも、食肉として使える部位と、状態の良い毛皮のみを剥ぎ取る。
そうして素材となる部位の回収を終えると、余りの部位を蒼炎撃による蒼炎で焼き払う。血も肉も灰に変え、始末を終える。
この日の狩りを終え、蒼汰はルートゲインへと帰還するのであった。