第六話
蒼汰は、エリスに自身のスキルについて。そして蒼炎について説明をした。蒼炎という暴走魔法を発動するに至った経緯等は省き、具体的な能力に絞って話す。
「……なるほど。それで、燃えない装備が欲しいってことね」
説明を受けたエリスは、納得したように頷く。
「それじゃあ、具体的な話に入ろっか。アタシは、ソータの為にスキル『火傷耐性』を付与した装備を作ってあげる。で、ソータはアタシの為に何を支払ってくれる?」
「金はもちろん出す。稼げる範囲なら、いくらでもだ」
「うーん……まあ、お金は貰うけどさ。あくまで最低限の作業へのお代だけでいいよ。それ以上貰っても、使い道なんて無いし」
蒼汰の提案に、エリスは芳しくない反応を見せた。
「じゃあ、何だったら作ってくれるんだ?」
「そーだなぁ――」
エリスが考え込むような仕草を見せた時だった。
店の扉を勢いよく開き――一人の老人が入り込んでくる。
「おい、エリスゥ! 帰ったぞォ、酒を出せ、酒ぇ!」
赤ら顔の千鳥足で、エリスに向かって近寄りながら喋る老人。何者だ、と蒼汰が眉を顰めると同時、エリスが鬼のような形相で口を開く。
「うるっせぇんだよクソジジイッ!! 今どう見たって接客中だろうが!」
「あぁん? なんだい、テメェ……エリスの男か、あぁん? どこの馬の骨か知らんが、エリスはやらんぞ! 出ていけェッ!!」
「出てくのはテメーだろ! 棺桶にブチ込むぞこの野郎ッ!!」
蒼汰が口を開く間もなかった。エリスがクソジジイ……赤ら顔の老人の背中を何度も蹴りつけ、部屋から追い出す。
「酒ぐらい自分で注いで自分で飲め! そんでとっととクタバレ死にぞこないのクソジジイッ!!」
「ケッ、調子こきやがってよぉ……俺だって肘さえ無事ならなぁ!!」
「ションベン掛けときゃあ治るっつたろーが!! 呑んだらクソして寝ちまえ!」
そうしてエリスが老人をどこかへ追いやった後、戻ってくる。
「――ごめんね、ソータ。うちのクソジジイが迷惑かけちゃって」
その顔には、見事に何事も無かったかのような笑顔が浮かんでいた。
「……さっきの人は?」
「飲んだくれのクソジジイ。いちおう、アタシの師匠で、拾ってくれた育ての親だよ」
エリスの言葉、クソジジイという呼び方。その声色には怒りや呆れはあっても、憎悪の色は微塵も無かった。
暴言を投げ、ぶつかり合いながらも。蒼汰から見て二人の関係は、決して悪いものには見えなかった。
「仲が良いんだな」
「ど、どこが!」
ムキになり、慌てて反論しようとするエリス。だが、すぐに落ち着き、話を戻す。
「……えー、こほん。それよりも。仕事の話に戻りたいんだけど」
「ああ。報酬の話だったよな」
「うん。……でもまあ、とりあえず、今はお金だけでいいよ。後は追々、ね」
言って、エリスは言葉を濁す。
「それよりも、急ぎで作ったほうがいいでしょ? なにか、優先して作って欲しいものはある?」
誤魔化すようなエリスの言葉に、蒼汰は疑問を抱く。が、特に指摘はせず、話の腰を折らずに話す。
「そうだなぁ。まずは服だな。予備も含めて、全部付与してくれたら助かる。って、まあこれは鍛冶屋に頼むようなことじゃないけどな。出来るならこれが最優先だな。で、そっから先は他の持ち物を、よく使うものから順に付与して欲しい」
蒼汰の言葉に、エリスは何度か頷く。
「となると、数はかなりのものになるね。いちいち数えるのも面倒だし、日当換算で払ってもらえたらそれでいいよ」
「ああ。いくらになる?」
「銀貨一枚かな」
エリスの提示した料金に、蒼汰は眉を顰める。
「……少なすぎないか?」
「ん? まあ、端数を出すのも面倒だしちょっとお安くしてるけど。下町じゃあ相場なんてこんなもんだよ」
エリスは事も無げに言う。下町――つまり表通りから外れた地域では、鍛冶師のような専門職でも稼ぐのが難しいのだろう。故に、こうして日当が低くなる。
そう考え、蒼汰は深く追求しないことにした。