第四話
蒼汰とエリスは正面から、互いの目を見つめ合う。方や、疑念と敵意まみれの瞳で。方や、本心がまるで覗けない仮初の笑みを貼り付けて。
「――とまあ、本題だけ言っても分かんないだろうしさ。もうちょっと詳しく教えてあげるよ」
言うと、エリスは、不意に蒼汰の予想外の行動に出た。
「ステータス、オープン」
それは、自らのステータスを他者にも見えるよう、開示するための言葉であった。
同時に、エリスのステータスが、ステータスプレートという形で表示される。
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Name:エリス・コニファー
Class:ブラックスミス
HP:IZ+/IZ+
SP:IS/IS
ST:<S/<S
STR:QS DEF:Qo
MST:<o MDF:<I
SPD:Q△ DEX:<Z
LUK:Qo INT:<<
Skill
『スキル付与術』
――――――――
「……おい、どうして見せた?」
蒼汰はエリスの意図が分からず、疑念を隠さないまま尋ねた。
「信用してもらうためだよ。ほら、アタシのスキル。『スキル付与術』ってあるでしょ? これが、今回のお話のキモになるわけ」
言うと、エリスはさらに説明を続ける。
「このスキルはね、文字どおりスキルを付与するスキルなんだよ。武器や防具、果ては日用品でも何でも付与出来る」
「それは、すごいスキルだな。だったら、どうしてこんな――」
「ぼろっちい、路地裏の店で働いてるか、ってこと?」
先んじて問いの内容を言葉にされ、蒼汰は不機嫌そうに頷く。
「ま、それは単純だよ。このスキル、実は全くすごくないから」
「……そうなのか?」
「うん。スキル付与するには、アタシ自身のスキルか、他の誰かがその場に居ないと駄目なんだよね。だから、アタシが付与しても『スキル付与術』しか付かない。しかも、このスキルはアクティブなスキルだから、例えば剣に付与したら剣が自ら付与しようって考えない限り発動も出来ない。マージでゴミ。役に立たない」
エリスはうんざりした様子でため息を吐いてから、さらに詳細を語る。
「で、他の誰かのスキルの場合はもっとひどい。普通、スキルってのは門外不出のとっておきだからね。わざわざ複製して誰かに渡しても良い、なんて人は居ない。自分で使うなら、そもそも自分が持ってるスキルだから付与する意味自体が無い。だから、ホントに使い道ゼロ。ゴミオブゴミ。カスなの。分かる?」
語るほどに熱の入っていくエリスに、蒼汰はどこか気圧される。不満を言葉にする程に、エリスの被る無邪気な笑みの仮面が剥がれていくのには、気付かなかった。
「でもね、ソータ。君のスキル次第では、アタシの付与術が役に立てるかもしれない」
言って、エリスはどこか縋るような声で言う。
「絶対燃えない装備なんて、普通じゃ必要にならない。普通じゃない理由なんて、大抵スキルに関わることだからね。蒼汰には、なにか特別なスキルがある。違うかな?」
エリスは、推測を述べる。この状況で、蒼汰は否定するつもりもなかった。
「ああ。そうだな、俺は特別なスキルを持っている」
「やっぱり。それなら、可能性はあるかな。ソータのスキル次第では、その『絶対に燃えない
』『絶対に熔けない』装備を作ることだって不可能じゃないよ」
言われて、蒼汰は納得する。つまりエリスが自らのステータスを開示したのは、蒼汰にもステータスを開示してもらう必要があった為だったのだ。
自分のステータスを他人に見せるのは気が引ける。というのが、蒼汰の率直な感想であった。しかしエリスの証言、そしてステータスから察すると、本当に蒼汰の望み通りの装備を作れる可能性が高い。
ゆらぐ天秤。蒼汰が最終的に選んだのは――条件付きでの、公開であった。
「……分かった。俺のスキルについて、教えてもいい」
「ホント?」
「ああ。でも、こっちも条件がある」
蒼汰は視線を鋭くして、エリスを脅すような口調で条件を叩きつける。
「もしも、俺のスキルについて他人に吹聴するようなことがあったら……その時は、お前を殺す」
物騒な条件の提示に、しかしエリスは怯まない。
「それだけ? いいよ。その時は殺しなよ」
あっさりと、蒼汰の条件を飲む。
「……俺から言っといてアレだけど、本当にいいのか?」
「うん? そりゃいいに決まってるでしょ。言わなきゃ死なないし。実質タダだし? それに、スキルを公開するってのが冒険者にとってどれだけリスクの高い行動なのか、アタシにも分かるよ。それでも吹聴するようなクズなら殺されて当然でしょ」
エリスの、何でも無いとでもいうような口調。だが、内容は過激な発言であった。
「よくもまあ、そこまで割り切れるなぁ」
呆れた蒼汰は、ついそんな事を口にした。するとエリスから思いもよらない言葉が返ってくる。
「まあね。アタシも、約束を守れないクズを二人殺したことがあるし」
突如、自らの犯罪を暴露した。思考が追いつかず、蒼汰は言葉を失う。が、なんとか次の言葉を考え、捻り出す。
「……殺したって、どんな奴を?」
と、つい話を広げるようなことを聞いてしまう。
そして――エリスから返ってきた言葉に、蒼汰は心を奪われることになる。
「聞きたい? アタシが殺したのは――父親と母親の二人だよ」
ニッコリと、意味ありげに嗤うエリス。その笑みに。そして両親さえ殺して悪びれない態度に。蒼汰は――つい、興味を抱いてしまった。