第十八話
奴隷狩りの襲撃。そして冒険者の裏切りから二日後。
キャラバンは無事、ルートゲインへと到着した。
あの日起こったことは、ほぼ全て事実のまま、冒険者ギルドへと報告することとなった。但し――敵を撃退したのは全員の協力によるものであり、蒼汰一人の力ではない、と誰もが口裏を合わせる。この点だけは、事実と異なる報告をすることになった。
これは蒼汰があまり目立ちたくないという理由だけを話し、全員に協力を求めた為である。命の恩人でもある蒼汰の頼みともなれば、断る者はいなかった。
そうして無事、ルートゲインに到着した蒼汰。
キャラバンの冒険者達に、ぜひうちのパーティに入らないかと勧誘された。だが、蒼汰はそのどれにも応えることはなかった。
ただ一言。俺はソロでやっていくよ、と。
中には、蒼汰が裏切り者の冒険者の一部と仲良くしていたことを知っている者もいた。
その為、蒼汰がソロでの活動を望むことも十分に理解された。今はまだ、心の傷が癒えていないだろう。だから、そっとしておいてあげよう。
そんな親切心から――キャラバンの冒険者達の間では、蒼汰を無理にパーティに誘うべきではない、という話が行き渡っていた。
だが――一方で、蒼汰の方はというと。
実のところ、さほど悲しんではいなかった。
大前提として、蒼汰は他人を信用していない。裏切りなど、当然起こるものだとして考えている。そのため、ショックを受けているという事実は無く。むしろ、改めて人間の醜さ、自分勝手さを確認できて良かったとさえ考えていた。
やっぱり、他人に期待するもんじゃないな。と、蒼汰は改めて思っていた。
そもそも――蒼汰は、早い段階で件のパーティ、裏切った四人を怪しいと思っていた。
まず、斥候が居ないパーティであるにも関わらず、その状態での戦闘に慣れが感じられなかったこと。
冒険者のパーティに斥候が居ない、という状況は珍しくない。だが、その場合は仲間同士で分割して役割を担い、不足を埋めるのが普通である。
にもかかわらず、ランクリーズの冒険者でありながら、リーダーにはそういった能力が一切見られなかった。まるで、本来は正式に斥候を努める仲間が存在するかのように。
と考えると、蒼汰にはリーダーが何らかの嘘を吐いているようにしか見えなかった。故に懐に飛び込み、企みを明かしてやろうと行動を共にしていたのだが。結果として、最後の裏切りの瞬間まで彼らが尻尾を出すことは無かった。
結局、矛盾点の原因が究明されることは無かったが、蒼汰は幾つかの仮説なら立てていた。一つは、斥候が悪事に加担することを嫌い、パーティを抜けた説。あるいは、その点で論争になって既に殺されている可能性もある。
そしてもう一つ、普段から彼らは奴隷狩りの仲間として活動していた説。斥候は、彼らのパーティではなく奴隷狩り達の中に居たとする説である。
何にせよ、既に終わったことである。今となっては、確認する術は無い。
さらに、蒼汰が彼らを疑った理由はもう一つある。
それは蒼炎魔法、蒼炎撃を使う瞬間を見られた時のことである。何やら慌てた様子で蒼汰を追いかけてきた四人。当人たちは蒼汰を心配したと言っていた。だが、どうにも不可解であった。
蒼汰一人の為に、敵陣地のど真ん中に突入するというのは、さすがに理由として弱すぎる。さらには、突入してきた割に傷が少なかった。そして――彼らの驚きには、蒼炎撃の威力に対して、焦り、怯えるような要素が含まれていた。
苦戦していた敵を、一撃で殺す威力の技。これほど頼りになるものは無い。何故、怯える必要があったのだろうか。
そして敵が撃破されたというのに、何を焦る必要があるのか。むしろ、安堵すべき場面であった。
まるで『味方』が殺された時のように焦り、そして『次は自分ではないか』と怯えるようだったと蒼汰は記憶している。
今になって思えば――幾度となく起こった野党の襲撃は、奴隷狩りによる敵情視察だったのだろう。と、蒼汰は考えた。蒼汰が蒼炎撃で殺した斧の大男も、恐らくは奴隷狩りの面子の一人だったのだ。
本来、あの場で死ぬはずの無かった実力者。それが、蒼汰の攻撃によって一撃で屠られた。
そう考えると、あの時点で既に裏切り者であった四人が焦り、怯える理由にも説明がつく。
ともかくそうした理由で、蒼汰はあの四人を一切信用していなかった。
そして案の定、四人は裏切った。
それによって――より一層、蒼汰の他人に対する『諦め』が深まった。
誰も信じられない。誰もが敵になるかもしれない。
そんな思いを抱いたまま――蒼汰はルートゲインに足を踏み入れたのであった。