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第十七話




 裸になった蒼汰が、たった一言。魔法を、その銘たる『蒼炎化』という言葉を呟いた。

 直後――蒼汰の身体に異変が起こる。

 肉体が、たちまち蒼い炎に包まれる。炎は蒼汰を燃やすことなく飲み込み――そして蒼汰の肉体そのものが炎へと変わっていく。


 暴走魔法、つまり『フレイムエンチャント』に過剰な魔力を注いだ結果起こる現象。かつて六魔帝のヴィガロを葬った時と同じ魔法。これに、蒼汰は『蒼炎化』という名前を付けた。

 この魔法の本質は、己と、己が触れる物質を蒼炎へと変えてしまうことにある。肉体そのものを高濃度の魔力に変えてしまうことにより、通常の支援魔法とは隔絶した身体能力の強化値を誇る。

 そして肉体が蒼炎そのものであるからこそ――触れるだけでも、敵に致命傷を与えることが可能となる。


「てめ、何を――」

 リーダーが声を上げる。が、それが最期の言葉だった。

 次の瞬間には――蒼汰は行動を開始していた。


 圧倒的な身体能力の強化により、蒼い流星か何かと見紛うほどの速度で移動。最初は裏切り者の筆頭、蒼汰に散々、親切に説明をしてくれたリーダーの顔を殴り飛ばす。

 そして人質の商人に危険が及ばぬよう、大剣もまた殴って地面に叩き落とす。


 一瞬の出来事。蒼い光が線となった。それ以上の事を、その場の誰もが理解できなかった。

 そして――それでも尚、蒼汰の行動は止まらない。続け様に、商人を人質に取っていた冒険者達を殴り飛ばす。人質に危険が及ぶような武器を破壊していく。

 そうして、裏切り者を一人残らず始末するまでに――コンマ一秒も必要とはしなかった。


 蒼汰が攻撃を終え、元の場所に戻って来る。それと同時に――というようにしか誰にも認識できない程の速さで、裏切り者の冒険者達が燃え上がる。蒼い炎に包まれ、何らかの衝撃、つまり蒼汰の打撃により吹き飛ばされる。人質の商人達から大きく距離をとった場所で――蒼炎は、裏切り者を真っ白な灰へと変えた。


 誰も、状況を理解できなかった。一瞬、瞼を閉じて開くような時間だけで。数十名の冒険者が、裏切り者が全滅した。

 それが蒼汰の攻撃によるものだと。そもそも、裏切り者が全滅したことも。人質が解放されたということでさえも。

 誰も、この僅かな時間の中では理解出来なかった。


 そして――理解できるような時間を、蒼汰は与えなかった。

 次の瞬間には再び駆け出し――今度は襲撃者側、つまり奴隷狩りの方へと矛先を向ける。

 理解の及ばぬ速度で。理解の及ばぬ魔法で。己が攻撃を受けたと悟る間も無いまま、襲撃者は次々と蒼炎に飲まれ、灰になって潰えていく。


 一人残らず。文字通り皆殺しになるまで――一秒も掛からなかった。

 百人規模の襲撃者が、蒼い光が走ったと同時に燃え上がり、灰に変わる。

 そんな……悍ましい光景を、キャラバン側の冒険者達は、ただ見ていることしか出来なかった。


 全てが終わり、蒼汰がゆっくりと、歩いて戻ってくるまで。誰もが唖然としたまま、灰になってゆく敵をただ見ていた。

「――はぁ。一応聞いとくが、みんな無事か?」

 蒼汰は、普段通りの調子で、冒険者達に声を掛けた。


 だが、誰も答えない。理解が追いつかない者。蒼汰の力に、異様な姿に怯える者。一瞬で死に絶えた襲撃者達に憐れみを覚える者。様々な理由で声を上げられなかった。誰も、これまでと同じ調子で、蒼汰に応えることは無かった。


 さらには――混乱した一部の冒険者が暴走する。

「ば……化け物ォオオオッ!!」

 一人の冒険者が剣を振り上げ、蒼汰へと襲いかかったのだ。


「はぁっ!? おい、やめろ馬鹿!」

 蒼汰は身を引く。間違って触られでもしたら、命を奪いかねない。回避するしか無かった。


 何故自分が襲われるのか、蒼汰は瞬時には理解できなかった。だが冒険者の攻撃を回避しつつ、考えを巡らせて凡そ原因について想像する。

 要するに、彼らは混乱しているのだ。突如現れた蒼い炎の塊。それは裏切り者を、そして奴隷狩り達を灰に変えた。次は自分達かもしれない、という恐怖は自然なものではある。

 突然の出来事であることに加え、まさか人間が炎の塊に変化した、等と想像出来るものは少ない。それが蒼汰の顔をしていても、何らかの化け物に飲み込まれた、と想像する方が簡単である。


 実際、蒼汰に襲いかかった冒険者、そしてその冒険者に続いて蒼汰に攻撃を加える冒険者達は勘違いをしていた。蒼い人型の炎の塊。これを蒼汰ではなく、新手の怪物だと認識していた。

 その殆どが、蒼汰が蒼炎になる瞬間、遠くに居たため様子をしっかりと確認できなかった者達であった。

 そして炎の塊が蒼汰であると気付いている者は、理解が追いつかず。仲間達の混乱を収める為に動き出すには、まだ時間が必要であった。


「くそ、なんでこうなるんだよ! 『蒼炎球』ッ! 『蒼炎壁』ッ!」

 蒼汰は悪態を吐きつつ、二つの魔法を――新たな蒼炎魔法を発動する。


 一つ目は蒼炎球。元々は火炎魔法『ファイアボール』であり、炎の玉を飛ばして攻撃する魔法である。しかし、蒼炎球の場合は蒼炎の球体が蒼汰を包むような形で発生する。

 蒼炎球自体には無論攻撃力もあるのだが、これを蒼汰は攻撃の為に利用してはいない。攻撃魔法同士が衝突した場合、威力が低い方は掻き消されるようにして消滅する。この性質を利用し、魔法による攻撃に対する防御壁として展開しているのだ。


 そしてもう一つは蒼炎壁。元の魔法は火炎魔法『フレイムウォール』。強固な炎の壁を生み出す防御の為の魔法である。これを暴走させた蒼炎壁は、蒼汰の身体の表面を包むように発生する。また、今回のように蒼炎球を発生させた状態ならば、さらにその表面に発生する形となる。

 元来の防御性能が極めて高くなっており、物理的な接触を弾き返す。しかも都合の良いことに、蒼炎壁の場合は触れた物体を蒼炎で燃やしてしまうということが無い。つまり、完全に防御一辺倒の魔法である。


 このように、蒼炎球を発動した後に蒼炎壁を貼れば、物理と魔法の両方に対して防御が可能となる。その上、接触した相手を不必要に殺すことも無くなる。

 蒼炎魔法という味方さえ巻き込みかねない危険な技を使う上で、必要不可欠な安全装置だと言える。


「――あー、もう! お前ら話聞け! 俺だよ俺、ソウタだ! ランクリーズの冒険者ソウタ! だから攻撃すんな!」

 蒼汰が無実を訴えるも、攻撃は止まない。冒険者は襲いかかってくるし、矢と魔法が雨あられとばかりに降り注ぐ。


「騙されねぇぞ、魔物の中には人間の姿を真似るやつとか、記憶を奪って騙そうとしてくるやつとか居るって聞いたことがあるんだよ!」

 先陣を切って蒼汰に襲いかかってきた冒険者が、まさかの理屈で反論をする。

「だぁああっ! なんでそんなどうでもいいとこで知恵使うんだよボケッ!」


 その後――小一時間程掛けての逃走劇、そして説得の甲斐もあり。最後は蒼炎化に使った魔力が尽き、ようやく炎の怪物状態から人間の姿に戻ったこともあって、どうにか事なきを得る蒼汰であった。

 勘違いをした冒険者達は蒼汰に平謝り。そんな彼らに文句を言いながらも許しを出す蒼汰。ただし全裸。

 見事に混沌とした状況が落ち着き、キャラバンが状況を立て直したのは、それから更に数時間も経過した後のことであった。

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