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第十五話




 ルートゲインへの旅路は、お世辞にも順調とは言えなかった。戦時中ということもあり、野党や魔物、魔獣の襲撃は頻繁に起こる。

 時には大規模な戦闘まで発生することもあった。

 だが、同行する冒険者の数が多いこともあり、基本的に商人側への被害は無かった。冒険者の中には負傷する者もあった。が、死亡者は出なかった。

 消耗しながらも、キャラバンは徐々に進んでいく。


 そうしたある日の夜。この日、蒼汰はとある冒険者のパーティと夕食を共にしていた。野盗の襲撃に対応する最中、偶然にも蒼汰がこのパーティの危機を救った形になった。その御礼に、と夕食をご馳走になる形となった。

 とは言っても、所詮は冒険者の野営食である。さほど立派な食事を振る舞われたわけではないのだが。


「――いやぁ。あん時は本当に助かったぜ、ソウタ!」

 パーティのリーダーであり、大剣使いでもある男が声を上げる。

「まさか、野盗共が魔獣を飼いならしてるとは思ってなかったからな。助太刀が無ければ、うちの後衛に被害が出ていただろう」

 盾と片手剣を装備する、壁役の男がリーダーに同意するように言った。


 蒼汰は、まるで照れ隠しをするような表情を浮かべてから答える。

「まあ、最初っから隠し玉があるっぽいとは思ってたからな。狼系統の魔獣に後衛を襲わせるつもりだったんだろうけど。まあ、警戒してるこっちからすればバレバレだったよ」

「でも、アタシらは気付かなかったけどなぁ」

 蒼汰の発言に被せてきたのは、このパーティの後衛の一人、弓士の女性。リーダーと同郷の、元狩猟ギルド所属の女だった。


「斥候がいないと、どうしても攻撃やその補助に集中しがちだからね。敵の陣形の奥で何が起こってるかなんて、戦闘中に気にする余裕が無かった。仕方ないよ」

 そう言って、弓士の女の疑問に答えたのは、パーティの最後の一人。魔法使いの女である。

 魔法使いの女も言ったとおり、このパーティには斥候役が不足していた。その為、この日の戦闘でも敵情を十分に知ることが出来ず、危機に陥った。


「……なあソウタ。良ければなんだが、うちのパーティに入らないか?」

 リーダーが真面目な顔つきになり、蒼汰へと提案する。

「今日の戦闘でも分かった。斥候役がうちのパーティには足りてねぇ。今まではなんとかやってこれたが、これからもなんとかなる保証が無い。っていうか、今日みたいなピンチは絶対にまたあるはずだ」

「だろうな。情報は集団戦における命綱だ。それ無しでここまでやってこれたなんて、なかなか幸運だったんだろうとは思うよ」


「ああ。だからこそ、俺はソウタに頼みてぇんだ。今日助けてもらったことで、お前の人柄に問題が無いことは分かってる。実力も申し分ない。ランクも、俺と同じリーズだ。しかも、都合よくソロ活動がメインの冒険者ときたもんだ。このチャンスを逃したら、俺らには当分斥候を補強する機会は無いと思ってる」

 リーダーの推測は正しかった。斥候という役割は戦闘以外にも必要とされる技能が多く、そう人数がいるわけではない。その為、多くの冒険者パーティがこのパーティ同様、斥候無しで活動している。一方で、実力のある斥候は需要が高く、どこかのパーティ専属か、そうでなくても幾つかの固定のパーティと行動を共にする場合が多い。

 蒼汰のように、どこのパーティとも縁の無い、実力の伴った斥候は非常に珍しいのだ。


 しかも蒼汰の場合はランクリーズ。一般的な冒険者としては高ランクの部類に入る。その為、尚更珍しい存在である。蒼汰と同条件の、都合の良い斥候を探そうとなると、例えルートゲインであっても年単位で時間が必要となる。


「――俺はソロ活動をやめるつもりは無い」

「そうか、残念だ」

「けど、とりあえずこの仕事の間は一緒に行動してもいい。場合によっては、その後も必要なら手を貸すことだって考えるぞ」

「マジか!? そりゃあ助かるぜ!」

 こうして、蒼汰は一つの冒険者パーティと行動を共にすることとなった。


 そして――失敗はその翌日、すぐのことであった。

 二日続けて、野盗の襲撃。今度は、前日の野盗の本隊とも言える者達による襲撃だった。

 ボスらしき大男は体長が二メートルを超えており、人間と同程度のサイズがある巨大な斧を振り回す難敵であった。

 キャラバンに同行するランクリーズの冒険者が、数人で束になっても敵わない相手であった。


 そこで――蒼汰は状況を打破するため、蒼炎魔法を使うことを決意。と言っても、人に見られぬように工夫はした。

 斧使いの大男を挑発しつつ、野盗側の陣営のど真ん中へと突っ込んでいく。キャラバン側の陣営の視線が一切無い地点で『蒼炎撃』を発動。即座に拳で大男の斧ごと殴り飛ばし、武器もろとも蒼炎の餌食に。斧は熔けて原型も残らぬ状態に。大男は消し炭となった。


 これで万事解決――とはならなかった。

「ソウタ!? なんだよそのすげー技は!?」

「っ!」

 驚き、蒼汰は声のした方向へと振り返る。なんと、行動をともにすると決めた件のパーティが付いてきていたのだ。蒼汰一人に危険な真似をさせるまい、と追跡してきたとのこと。

 その結果、蒼汰の技――蒼炎魔法が見られる結果となった。


 やがて野盗のボスも倒れたこともあり、撃退に成功。無事、キャラバンは守り通された。

 これまでで最大規模の襲撃であったこともあり、祝勝会とばかりに商人側から冒険者へと酒や食事が大盤振る舞いされた。誰もが騒ぎ、飲み、喜ぶ。

 その最中、蒼汰が敵のボスを倒したこと。青い炎を拳に纏い、一撃で消し炭に変えたことが、酒の肴とばかりに広まっていく。

 当然、噂の出処はパーティのリーダー。蒼汰の、恐らくは固有スキルであろう、という推測も添えて。己の武勇伝だとでも言わんばかりに喧伝する。


 そうして、蒼汰が隠したがっていた蒼炎魔法の一部が、キャラバンに参加した冒険者達には知れ渡ることとなってしまった。

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