第六話
「それでは、冒険者証の方を提示していただけますか?」
依頼の受付作業が続く。言われた通りに、蒼汰は自分の冒険者証――昨夜偽造した冒険者ギルドの身分証を提示する。
「はい、ありがとうございます」
受付の反応から、このカードが冒険者証と呼ばれるものであることが確認できた。
「……えー、蒼汰さん。今回の依頼なんですが、ランクトーズ、つまりあと二つほどランクを上げないと受けられないのですが」
「あ、そうなのか。じゃあ……どうすればいい?」
ランクトーズとは、依頼票に書かれていたランクZという表記と正に同じもの。つまり、アラビア数字で言えばランク3の意味になる。
蒼汰のランクは1である。よって、本来はこの依頼を受けることは出来ない。
だが、蒼汰はあえてこの依頼を選んだ。これにより、受付との対話が続いて新しい知識を得る機会が増える。
「そうですねぇ……蒼汰さんは元傭兵だということですから、昇格試験さえ受ければランクトーズ程度であればすぐ上がるかと思うのですが」
「じゃあ、受けさせてくれ」
「ですが、こちらの依頼の期日までに昇格試験がちょうど実施できるかどうか不明ですので……王都の方で昇格試験は受けられなかったのですか?」
「あー、そういうのはアウェーでやってこそだ、って団長がな」
「なるほど。では少々お待ち下さい。昇格試験の日程を調べますので」
――その後、受付の対応により昇格試験は三日後にちょうど行われることが判明した。蒼汰もその日に昇格試験を受けられるよう、申込みを済ませた。
そしてルートゲイン行きの護衛依頼については、出発が一週間後となっている。よって、昇格試験後に申し込んでも十分に間に合う。大規模キャラバンの護衛依頼であるため、募集人数も多い。一人分の枠を空けておいて、昇格後に正式に依頼を受ける。もしも蒼汰が試験に落ちたとしても、一人減る程度は大した問題にはならない。期日までにその一人分を埋めることも難しい話ではない。
といった理由から、蒼汰の昇格試験、および護衛依頼については受けることがほぼ確定した。
なお、一週間というのはこの世界における八日間のことを意味する為、注意が必要となる。無論蒼汰はこれを把握しているので、大した問題ではないのだが。
「――では蒼汰さん、三日後は試験の方、よろしくおねがいします」
「ああ」
「他の依頼は受けていかれますか?」
「いや。とりあえず護衛依頼までは普通に魔物狩りでもして過ごすよ」
「そうですか、では、今回はありがとうございました」
受付での用事はこうして全て終了し、蒼汰は冒険者ギルドを後にする。結局、ルートゲインとはどういう街なのか、については不明なままであった。だが、それを差し引いても十分過ぎる情報が得られた。
特に、蒼汰が王都の元傭兵であることが全く疑われていないと確認できたのは大きい。今後、自信を持ってそういう態度をとることが出来る。嘘に神経を使う必要が無くなるのは、精神的な面で大きい。
と、現状について思いを巡らせながら、蒼汰は街から出門する為に正門へと向かう。今日から三日間、試験の日までは魔物や魔獣を狩って過ごす。冒険者らしく活動していく為だ。
そうして到着した正門では、入門の際に会話した衛兵とまた顔を合わせる。
「さっそくお仕事ですか?」
「ああ。一週間後、ルートゲイン行きのキャラバン護衛依頼があったからな。それまでここでやってくつもりだ」
「でしたら、しばらくはお会いする機会が多そうですね」
そんな会話を交わしてから、蒼汰は街道を進んでいく。
街の防壁がギリギリ見えるぐらいの距離から街道を外れ、周辺を周回するように見回っていく。防壁近辺や街道付近は他の冒険者もよく活動しているはずで、獲物となる魔物魔獣は少ないと予想される。よって、高収益を目指すなら手付かずの領域。
つまり人の立ち入った様子のない、背丈の高い草木が乱雑に生え放題の平野。起伏は少ないものの、岩や木々、窪地、草地が多く、魔物魔獣が姿を隠すには十分すぎるほど物陰が多い。
そうした平野を一歩ずつ踏みしめながら、蒼汰は歩いていく。周辺の気配に意識を向けつつ、足元にも注意しながら歩き続ける。
やがて小一時間ほどした頃になって、ようやく最初の魔獣と遭遇する。