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第四話




 身分証を偽造し、都市の外で夜を明かした蒼汰。日が昇り、正門が開くとすぐに入門待機の列に並ぶ。

 開門直後にも関わらず、既に入門待機の列にはいくつかの馬車が並んでいる。蒼汰はその後ろに並んだ。


 やがて数台の馬車が衛兵のチェックを受け、門を通り抜けていく。少し待っただけで蒼汰の順番となった。

「おはよう、衛兵さん」

 蒼汰は、挨拶と同時に自ら身分証の提示をする。この一連の動作は、騎士団での行軍中に立ち寄った都市でも行ってきた為、慣れた動作である。


「ようこそ。……冒険者さんですか。ランクアズで、どうしてここに?」

 ランクアズ、これは地球の言葉で言えばランク1。つまり最も低い等級の冒険者であることを意味する。


 この世界の数字は八進数であり、地球人である蒼汰が使うアラビア数字とは仕組みからして大きく異なる。

 まず、字からして違う。0から9に該当する文字が、蒼汰の知る文字や記号で例えるなら、0から順にoI<Z△Q+Sとなっている。

 そして読みに関しても、複雑なルールが存在する。数根と数接尾、数格という三つの基準で読みが決定される。


 が――本来、竜言語は意味をそのまま伝える言葉であるため、量的な意味合いでの発言であれば、しっかり蒼汰にもアラビア数字的な意味で伝わるようになっており、実際に理解できる。

 だが、名詞的な意味合いで数字を使う場合は話が変わる。量的な意味を含まないため、アラビア数字的な意味への変換がなされず、そのままこの世界での言葉どおりに聞こえるのだ。


 ランクアズという言葉の場合は、衛兵側が量的な意味をほとんど意識していないため、蒼汰には言葉通りにしか聞こえない、という仕組みとなっている。


 とはいえ、さすがに蒼汰もこの世界に来てから随分八進数にも慣れた。直接の計算こそ出来ないものの、数字の読みと意味ぐらいはすぐに理解できる。

「――元は王都の方で傭兵団に居たんだけどな。外の世界が見たくなって、冒険者に転向したんだよ」

 故に、全く焦ること無くこうした嘘を平然と吐くことも出来る。


「なるほど。若い内の冒険は買ってでもしろ、と言いますしねぇ」

「あはは。団長にもよく言われたよ」

「では、こちらの魔道具に」

 話しながら、衛兵は流れるような動きでカードを魔道具に差し込む。これを蒼汰の方に差し出すので、蒼汰が触れて魔力を流す。当然、昨日の夜に魔力を登録したばかりであるため、青く光る。


「では確認出来ましたので、お進みください」

「ああ、ありがとう」

 蒼汰は衛兵からカードを返してもらいながら、笑顔で受け応える。

「冒険者さんでしたら、ルートゲインへの旅の途中かと思いますが。この街も良いところですので、ぜひ楽しんでいってください」

「そうするよ」

 ルートゲイン、という言葉の意味は分からないものの、蒼汰は特に反応することなく正門をくぐる。


 こうして、蒼汰は無事に入門することが出来た。

 そして、まずやるべきことは――冒険者としての経験を積むことである。今後、蒼汰はヒルヴェイン王国王都出身の冒険者として生きていく。元傭兵という設定を使うことで、戦闘技能やその他の能力の高さを理由付けする。

 その上で、冒険者としての経験の薄さにも理由を付けつつ、今後の生計を立てるための活動も自然な形で開始する。


 さらに、先程の衛兵との会話で新たな目的も出来た。それは、ルートゲインというものについて調べること。話しぶりから、何かしらの場所を指す言葉であることは間違いない。だが、ヒルヴェイン王国周辺にはそのような名前の国は無い。

 まず、ヒルヴェイン王国の西部から南西部は海に面しており、その先に国は無い。南東部の国境沿いに魔族の領域が広がっており、北東部ではラインスタッド帝国――魔法産業と軍事力に優れた国と面している。現在地はラインスタッド帝国とヒルヴェイン王国、そして魔族の領域の三つが接する点に近く、駐屯地はこの街をさらに南へ向かった地点にある。なお、王都は西南西の方角にある。


 そしてヒルヴェイン王国の北部にはパスハット共和国――商業の盛んな国が山脈を介して存在する。山脈を介している為、パスハット共和国との国交は主に海路となっており、逆に山脈の途切れた辺りからラインスタッド帝国と接しているため、こちらは陸路での国交が主となっている。


 ――つまり周辺にルートゲインと呼ばれるような国は無く、都市か地域の名称であるはずなのだが、蒼汰の知識には存在しない。騎士団での活動上、駐屯地周辺の地理情報も頭に入れていたため、少なくとも近場にある都市ではないことは分かる。

 だが、それ以上のことは分からない。もしも冒険者の常識としてルートゲインという存在があるのなら、知識には入れておいた方が良いだろう、と蒼汰は考えた。

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