表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/79

第二十六話




 ヴィガロに勝利した。

 その後の蒼汰は――しばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。肉体を蒼炎へと変えたフレイムエンチャントも効果時間が終了。肉体は炎から、生身へと戻る。

「……おれ、いきてる、のか?」

 蒼汰は、自分の生存を信じられずにいた。


 蒼炎と化したことで、蒼汰は死を覚悟していた。自分が暴走した魔法を発動した自覚があり、故に死は必然だと考えていた。

 蒼汰が学んだ知識は、あくまでも暴走魔法によりほぼ確実に術者は命を落とす、という点のみである。よって、竜言語という特殊な存在を介してスキルと暴走魔法が噛み合い、奇跡を起こしたという事実が理解できない。


 しかし、十数分ほど立ち尽くした結果、ようやく実感が湧いてくる。

「……そうか。俺、生き残ったのか」

 じわり、じわり。歓喜が蒼汰の胸に広がっていく。

 ヴィガロという強敵を打倒したことはもちろん。結果的に自分自身が何か『吹っ切れた』ことに対する喜びもあった。


「俺――自由だ」

 その言葉は、不思議と溢れてきた。蒼汰を取り巻く環境は何も変わってはいない。むしろ、悪化すらしていた。

 帰還すれば、今まで通り勇者として戦うことになる。騎士団長は死に、心の支えであったネリーには見捨てられた。クラスメイトは蒼汰を称賛するだろうが、そうした上辺だけを見てすり寄る輩が蒼汰は嫌いな為、間違いなく衝突する。そして元通り、関係を悪化させるだろう。


 しかし、それでも蒼汰の心は晴れやかだった。

「殺せばいいだけだったのにな。それだけで、うるさい奴らはみんな静かになる」

 そう。自分の暴走魔法――蒼炎で燃やせば、どんな不快な存在も灰になって消える。

 自分の世界は静かになり、イライラする事もない。

 つまるところ、心が自由で居られるのだ。


「――なんか、楽しくなってきたな!」

 ニヤリ、と無邪気な少年のように蒼汰は笑う。ヴィガロという障害を排除したことで、蒼汰の心はすっかり晴れやかに変わっていた。

「よし、まずは何をしようか……」

 顎に手を当て、考え始める蒼汰。そして、ようやくあることに気づく。


「……とりあえず、服を着るか」


 ――蒼炎の、最大の欠点が判明した瞬間であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >「殺せばいいだけだったのにな。それだけで、うるさい奴らはみんな静かになる」 これ、ほんと真理。 もともと拉致誘拐されてきたんだし、誘拐犯達に従う必要なんて無かったんだし。 魔王?魔物? …
[一言] まあ、スッポンポンやしなw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ