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第十八話




「――あれが、魔族か」

 予定していた地点、交戦区域の南端。到着してすぐに、蒼汰は前方を睨みながら呟く。

 閑散とした森の中、交戦中の鎧姿の兵士と、相対する異様な姿をした人。皮膚が青から紫色で、腹部が異様にボコリと膨らんだその姿。事前に教わっていた通りの姿をした存在が、撤退戦を繰り広げていた。


 兵士は魔族を剣で斬りつける。肩口から大きく裂かれた魔族は、しかし平然と交代する。次の瞬間には、傷口からミミズのように蠢く肉が溢れ、傷を埋める。

 この回復力、そして人類と比較して倍以上の身体能力を持つ為、魔族という存在は厄介なのだ。複数人で囲んで切り刻み、絶命してしまえば再生することもないが、そうでなければ体力の続く限り傷が癒える。


 そして現状、地形もまた魔族に味方していた。魔族を殺す為には、最低でも三人の兵士で取り囲む必要がある、というのが定石である。だが、閑散としているとはいえ、森の中では魔族を取り囲むことが難しくなっている。

 ――故に、騎士団は軍の要請を受け、この場に勇者を連れて駆けつけた。騎士団はこの世界における強者、つまり精鋭で構成される首都の防衛戦力である。一般兵と比較して、三人分の戦力が見込める者が多い。故に、一対一の状況でも魔族と戦い、討つことも可能になる。


 さらに加えて、騎士と同等かそれ以上の力を、既に勇者達は獲得している。つまり、現在の地形的不利状況であっても、騎士団と勇者であれば十分な打撃を魔族側に与えられる、ということになる。


 本来なら、騎士団と軍部は異なる命令系統を持つ組織であるため、こうした要請に従うことはありえない。軍部が外部の勢力に対抗する為の軍事組織だとすれば、騎士団は都市部及び領内の治安維持の為に組織された軍事組織である。騎士団の命令系統は各所属都市の領主――王都の場合は王家にある。

 だが、今回のように利害が一致する場合は、騎士団が軍部の要請に応じる場合もある。地形的不利は魔族と一般兵の戦力差に原因があるため、騎士団及び勇者にとっては不利に働くものではない。むしろ、勇者が複数の魔族に囲まれて負傷、あるいは死亡する事態も避けやすい。

 また、敵は撤退戦の状況にあるため、深追いさえしなければ手痛い反撃を受ける心配も少なく、勇者の初陣としてこれ以上に安全な状況も無い。


 そうした都合から、騎士団長は軍部の提案を受け、交戦区域南端へと到着した――の、だが。

「……妙だ」

 騎士団長は、戦況を眺めつつ呟いた。既に騎士団と勇者は魔族と交戦状態にある。一丸となって逃げる魔族を追い、その背面へと攻撃をしかける。

 一方的な戦況。圧倒的優位な状況である。


 ――だというのに、何故。

「団長。気づきましたか?」

 蒼汰は――戦況を観察していて、気づいたことを報告するため、騎士団長のいる後方まで下がっていた。

「ああ。蒼汰も分かったか」

「はい、いくらなんでも……死体が少なすぎます」


 一方的に攻撃を仕掛けているにも関わらず。戦力差はこちらが優位であるにも関わらず。

 何故か、魔族側の戦死者があまりにも少ないのだ。

 不自然な状況には、必ず理由がある。戦死者が少ないということは――それだけ、魔族側が上手く攻撃を捌いているということにもなる。


 集団戦である以上、効果的な守りを維持するには組織的な行動が必要となる。そして不利状況の撤退戦で、それを維持し続けるのはあまりにも難しい。

 出来るとすれば――そもそも、最初から撤退するつもりであった場合だろうか。


 そうした可能性にまで思い至ったところで、騎士団長は判断を下す。

「……危険だな。敵の罠に誘い込まれている可能性がある。すぐさま撤退の指示を――」

 指示を、出そうとした。

 それと同時のことだった。



――ドォオオンッ!!



 つんざくような炸裂音。それと同時に、突出していた騎士団と勇者のグループが、突如発生した炎に包まれた。

 炎は爆発を伴い、周辺にも無数の火球を飛ばす。これが直撃した一般兵などは即死するほどの勢いと高熱を持った火球である。十分な装備と高いステータスを持つ騎士団員、そして勇者であっても負傷は免れない。


「なっ、何が起こった!?」

 狼狽し、声を上げるのは軍部の指揮官。南端の兵士に指示を出していた男であった。騎士団と勇者の到着で戦局は決着したと思っていただけに、突如の爆発と戦況の変化により混乱を極めていた。


「――ヒヒハハハァッ! 無様だなぁ、ニンゲンさまよぉ!?」

 そして、混乱極まる戦場に響く、一人の男――魔族の声。

 その魔族は、森の奥から悠然と歩きながら姿を表した。先程の爆発で壊滅した騎士団の死屍累々が転がる中を突っ切り、時に死体を踏みにじりながら進む。


 その足元に――勇者の姿もあった。

 クラスメイトが、死んだ。それが理解できた勇者達は、途端に顔を青ざめさせる。


 そんな勇者の様子など構うこともなく、魔族は告げる。

「オレサマの爆裂魔法の前で、どんだけ生き延びられるかゲームといこうじゃねぇか!!」

 そう叫ぶと、魔族はある騎士団と勇者の集団に手を翳す。そして……次の瞬間、爆ぜた。


 ドォンッ! と、先程の爆発音よりは小さい、しかし十分に大きな音が響く。同時に何も無かった空間から炎の奔流が溢れ、同時に爆発の衝撃が周囲に広がる。炎は衝撃により散らばり、周囲の人々を巻き込み、焼き殺す。

「……六魔帝が、何故ここにッ!?」

 騎士団長の呟いた言葉に、蒼汰は気を引き締める。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公は、熱や炎には耐えられるけど、衝撃は食らうんだっけ 爆裂の近くにいたらやばいな
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