第十四話
ネリーの案内により蒼汰が向かったのは、城内のとある一室。階段を幾度も下りたことから、おそらく地下なのではないか、ということだけは分かった。
部屋は石造りの壁と床、天井以外には木製の古びたテーブルしかない。簡素というより、殺風景な部屋であった。
「よく来たな」
そう言って出迎えたのは、日中の訓練でも顔を見せていた騎士団長。そして、両隣に老人が一人と、壮年の男が一人。どちらも黒いフード付きローブを着込んでおり、どうやら召喚された時に居た人々と同類らしかった。
「蒼汰、お前のスキルは過去に例の無いスキルだ。しかし、耐性系スキルというのは貴重で、活用さえ出来れば有用でもある。それ故に、お前には特別訓練を受けてもらう」
「それは分かった。でも、どうすればいいんだ?」
「それを決めるには、まずスキルの効果の程度を調べなければならん。今回は、火炎系の魔法に優れた魔法師系のクラスを持つ二人に協力してもらう」
騎士団長の言葉を受け、ローブ姿の二人が共に礼をする。
「では――まずは小手調べからだ」
騎士団長の言葉と共に、まずは壮年の男が前に出る。何やら呪文らしい言葉をモゴモゴと唱えた後、蒼汰に向けて手を翳す。
すると、男の手から火花のような光がバチバチ、と弾けて飛び出る。
「うわっ!?」
蒼汰は驚き、回避しようとする。だが一歩遅く、火花は蒼汰へと直撃。
しかし――熱さは感じない。何かが皮膚に触れたような、ピリリとした感触だけがあった。
「……あれ?」
「ふむ、まあこれぐらいは耐えるか。まあ、耐性系スキルであればこの程度の効果は当然あるものだからな。驚くほどでもないか」
騎士団長は言いながら考察する。
「で、蒼汰。魔法を受けた感触はどうだった?」
「……熱さは感じなかった。ただ、何かが触ったような感触はあった」
「ふむ、そうか」
騎士団長は、顎に手を当てて思案する。
「……よし。では次は、直接炎で炙ってみようか」
そうして――幾度もの魔法による攻撃を受けることで、蒼汰の火傷耐性の効果の程が判明した。
まず、熱に対しては完全と言っても良いほどの耐性があった。石が溶け出すほどの高温の炎であっても、蒼汰の皮膚を焼くことは不可能であった。
ただし、魔法そのものが無効化されるわけではなかった。例えば炎で生み出された剣の魔法なら、熱は効かない。だが刃は蒼汰の皮膚を裂く。他にも爆発魔法の衝撃や、勢いよく降りかかる炎の衝撃も無効とはならなかった。
つまり、熱そのものに対する完全な耐性。それが、火傷耐性というスキルの効果であった。
「うむ。想像以上の効果で安心したぞ。これなら、いくらでもやりようはある」
「本当か!?」
騎士団長の言葉に食いつく蒼汰。騎士団長は、頷きながら答える。
「例えば、魔族共は侵略する過程で村や町を平気で焼き滅ぼそうとする。そんな時、熱が効かないお前がいれば、救助活動は無論、魔族への反撃作戦も立てやすいだろう。逆にこちらが魔族の駐屯地へと攻撃を仕掛ける時も、火計を扱いやすくなるだろうな」
即ち、それは工作員としての活躍が見込まれるという意味であった。蒼汰としては、願ってもみない展開であった。元より、喧嘩はあまり得意ではない。他の勇者達、クラスメイトのように前線で戦うよりは、そうした頭を使う役割の方が得意と言えた。
「ただ、当然それを実現するためには厳しい訓練が必要だ。素人に工作活動は不可能だ。他の勇者達のように、特別戦闘に有利なスキルがあるわけでもない。……日中の基礎訓練に加えて、これからは夜間に技術訓練を追加で行うことになる。ついてこれるか?」
「ああ。やれることがあるなら、やってやる。逃げたりしないよ」
蒼汰は言って、騎士団長の目を見た。
騎士団長は蒼汰の視線を受け止め、頷く。
「良い顔だ。その覚悟に応えられるよう、きっちり地獄のメニューを考えておいてやる。今日のところは、部屋に戻って休んでおけ」
「ああ、分かった――いや、分かりました、団長」
蒼汰は、言葉遣いをあえて変えた。この男は――騎士団長は、おそらく信頼できる大人だ。尊敬に値する人間だ、と考えたからだ。
その意図を知ってか知らずか。騎士団長は微かに笑みを浮かべ、頷いた。