喧嘩して剣貸して拳科して
とある喫茶店での喧嘩。
野球帽を被った青年と、可愛らしい少女のまるで父親と子供の喧嘩のような口論。
それを母親の立場で見ている、ツインテールの女性が我関せずと眺めていた。
「のんちゃんはディズニーランドに行きたいのでーす!」
「ダメだ!お前がそんなところ行ったら、迷子以上に大惨事になる!!」
「行きたいです!!ディズニーに行きたいです!!」
「子供騙しのアトラクションとクソ高い商品しかないぞ!映画とネット通販で我慢しろ!!」
「悲しすぎる事言わないでください!広嶋さん!!のんちゃんが行けるように広嶋さん、なんとかしてください!!」
「絶対イヤだ!!」
どうして、のんちゃんがディズニーランドに行くと危険かは……。今回のお話には関係ないので割愛させていただく。言える事はのんちゃんが地球とは異なる場所から、いわゆる異世界人という人物であり、大勢の人間がいるところに行けば、自分を含めて危険な事になる。それを知っていて広嶋は彼女を止める。そもそも
「ミムラ!!お前、なんつーことしてくれてんだ!?お前がのんの親代わりだろ!いちおの!」
「えーっ。だって、金曜ロードショーがディズニー特集だったし。私もたまには見たかったからさ」
「お前ものんも、超危険度のある能力を抱えてる事を自覚しろ!!」
「でも、私だって広嶋くんとディズニー行きたいよ。のんちゃんと一緒に行こうよ」
「俺が何回死ぬと思ってんだ!?お前等2人相手とか、絶対お断りだ!!」
いつもながら迷惑な連中達に振り回される広嶋。
この喫茶店には通常とは異なる、怪物や傑物の類が集まってくる不思議な喫茶店だった。それでも多くは人間達が作る平穏の中に生きる事を望む、平和主義者ばかり。
「行きたい行きたい!!」
「小6なのに、それ以下の駄々を捏ねるな!のん!」
のんちゃんが泣き出しても、平行線のまま。金の問題もあるし、なによりそんなサービスなんてやる予定のない広嶋。
「あ!」
とにかく、なんとかしてのんちゃんを諦めさせようと意地を張っている時にだ。ミムラが閃いた声をあげ、広嶋に声をかけた。それは広嶋達に言っている感じではなく、自分が語るためだった。
「もーぅ!広嶋くんとのんちゃん!このまま”喧嘩して”ても、解決しないから!のんちゃん!だったら」
泣きじゃくるのんちゃんの方に言っているんじゃなく、広嶋に言っている。
めちゃくちゃキラキラした笑顔を見せながら、いつの間に懐に入っているのか聞きたくなる物が出てくる。
「私が”剣貸して”あげる!」
ミムラが取り出したのは、包丁。それをのんちゃんに手渡そうとしていた。本人はその危険性すら感じておらず、ドヤ顔で渾身のダジャレが決まったというご尊顔。
「あっぶねーーもん、のんに渡すんじゃねぇーー!」
「ギャーーーー!!」
そんな顔に広嶋の飛び蹴りが炸裂する。衝撃で舞った包丁は喫茶店の天井に突き刺さった。
女のミムラを容赦なく、床に蹴り倒す広嶋。そんな広嶋に振り向きざま。
「そこは包丁かーーい!!ってツッコんでよ!!」
「うっせーよ!!今ので、のんが俺を刺しに来たら、こんな事よりひでぇー目に合わせるぞ!!」
「え!?私に怒るの!?」
「当たり前だ!!頭オカシイのかよ!!」
馬鹿2人の相手に疲れたというか、隙を見せてしまった広嶋。
そんな楽しそうな旅行話が聞こえたものだから、場外乱闘の如く。楽しそうに広嶋の背後から
「私も”拳科して”あげるわ!!」
「ぐふぉっ!!」
後頭部に隕石が直撃したかのような、ダイナマイトメテオパンチ。広嶋がミムラを蹴っ飛ばした一撃とはまるで違う殺意ある破壊力。一撃で広嶋を店の外に追い出す、山本灯の拳が炸裂した。
そんな灯は広嶋の苦労なんか知ったこっちゃなく、
「これで決まり!みんなでディズニーに行こう!!」
「おーーーっ!」
「ほ、ホントですかーー!?灯さん、素敵ですーーー!!」
「金は広嶋と藤砂に出してもらって、たんまり遊びましょ。じゃあ、予定を立てましょうね」
この馬鹿野郎がと。店の外に殴り飛ばされた広嶋は思っていた。そんな彼に近づいて来たのはこの店の店主、アシズムという老人だった。
「アシズム。俺、なんか悪いことしたか?」
「そうだね、店の天井に包丁刺したのと、壁をぶち壊したこと。ちゃんと修理費出して」
「お前まで追い討ちかよ」