『小説を消してしまう』
都内某所、路地裏にて営業される隠れ家的BAR
店内ではクラシックが流れ、明かりも暗めに設定されており、趣がある
ビリヤード台やダーツ等の娯楽もあり、まさにbar といった内装。
……そんなこのBAR、実は毎日昼頃から開いており……
おっと、お客様がいらっしゃった様ですね
カランカランと音色を響かせ、扉が開く
「いらっしゃいませ」
「マスター、いつもの」
「ドリンクバーでございますね」
「言わんといて」
マスターは微笑みを浮かべながら、シェイカーのセットを使い、慣れた手付きでカクテルを作る
カラカラと混ぜる音は耳に心地よい
そして、カクテルは渡される
「お待たせいたしました。『yokmksygtn』でございます」
「何か、極めて私に対する怒りを感じます」
「いえなんのことだか」
「まぁ、いただきます」
ノンアルコールカクテルである
しかし、だからといって舐めてはならない。
本来カクテルというのは酒類を混ぜて作る物、始めたての新人は酒の力に頼る物
しかし、それに頼れないノンアルコールは、最も熟練の技が感じられるのだ
結論から言って非常に美味
「さて、表情から察するに、何か悩みを抱えていますね?」
「やっぱばれるかぁ…」
「さぁ、なんですか?相談に乗らせていただきましょう」
マスターは、とても聞き上手である。
故に、人の愚痴や悩み、それを数多く聞いてきた。
そしてその全てに解決の糸口を見つけ、それを伝え、解決してきたのだ。
その中には、今やテレビで引っ張りだこな俳優、女優、ハリウッドスターや、政治家、有名企業の社長、それでも語りきれない程いる
「実は、俺ネットで小説書いてるんだけど、気に入らないと自分作品をすぐ消す癖があって」
「ほうほう」
「一回、結構人気が出た作品があって、そしたらそこから入ってくれた俺のファンが数名いたっぽいんだが……」
「なるほど、読めてきましたね」
「…消しまくるせいで、どんどん離れていって、今じゃ見る影もなく……続編も、大まかなストーリー構成は出来てるんだが………一人二人しか登録しないもんで、書く気が起きないんだ…」
「なるほどなるほど、ある種の黒歴史ですね」
マスターは顎に手を添えて考えている
「そうですねぇ……今はどうしてるんですか?」
「え?本当に誰も見てない奴でやる気が起きない奴は消してる」
「学んでますねぇ」
「書く気はあるけど書けないって奴もあって…どうしよ、本当。発想はすぐなのに続かない……」
「うぅん………プロットまで書いて書く気が起きなくなる………でもすぐ書くとやる気なくなる……
難儀な人生歩んでいますねぇ……」
マスターが頭を軽く抱えている。問題が難しいとこうなるのだ
「うぅん……やはりプロットを書くしかありませんね…」
「えぇ?でも一回潰れてるんだが?」
「それは続編と言う前置きがあった上で、人が集まらなかったからでしょう?
と言うより、一つでまとめることのできる作品を無理に続けるのは駄目なんですよ」
マスターは注意するように言う
「特に、スッキリしないと只々イライラするだけの作品を続ける、しかもスッキリさせないのは本当に駄目です。読む気が二度と起きなくなります」
「何処ぞのリセットする奴を叩くのはやめてよー」
「コホン、まあとにかく、プロット作りから入りましょう」
「えぇー……でも続かないかも…」
「続かないならそれでいいのです」
「え?」
「やる気が無くなれば、そのまま書いていてもその結果にたどり着いたはずです。
つまり、早期に続かない作品を消せるわけですよ」
「なるほどなるほど」
「プロットというのには実は種類があってですね、小さいのはsプロット、大体50文字位ですね。
大きくてフルプロット、これは5000字位ですね。
こんな感じで段々と大きくなります。大きく少しづつ書いていけば、途中で飽きにも気が付きますし、続かない作品を量産しないようになります。
詳しくは調べて見たほうが早いですね。見つからなかったら作者にメッセージで聞いてみてください」
「誰に向けて?」
「あなたへですよ」
「そうですか。ごちそうさま」
「おや?お帰りになられるので?」
「今日はちょっと用事があってね。また来まーす」
ここは都内某所隠れ家的BAR
扉の鈴は、また鳴る