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第八話 剣戟

剣士が見合う。傍から見る者が存在したのなら、その時点で試合の勝敗は決したと言うであろう状態で両者は互いの動きを待っていた。当然その均衡が続く訳は無く、先に動いたのは大剣を構えた巨軀(きょく)であった。30mもある間合いをその男は一足で詰めていた。その巨体と大剣を無視したような敏捷性は、剣と肉体のみで上り詰めた男だからこそ成せる技だろうか。


「フンッ!」

ジャンクが大剣を振るう。風を切り()()、と音がする斬撃が少年を斬らんとする。その速度は常人ではまず反応できない領域であり、加減しているとはいえ喰らえば気絶は免れない。


「ーーーーーッ!」

シャルシスの持っている剣で競り合える筈も無く、胴狙いの横振りを寸での所で躱しきる。すかさず体制を立て直し、続く二撃三撃を捌き距離を取る。

「よく躱した。俺の実力を見くびり試験を受けた馬鹿では無いか。」

ジャンクが余裕のある口調で話しかける。対してシャルシスは自身に掛けられる強化魔法が微弱とはいえ、視覚補助をしても見切りきれない剣筋に危機感を感じていた。


(・・・単純な肉体の出力は前世と比べ38%程。予め測っていたことではあるが、戦闘になるとこうも違うか。)


とはいえシャルシスの筋肉量は前世でもそこまで多いという訳では無い。身体能力、剣技、戦術の大半を魔法による強化で補っていた為、なおこの状況は辛いものであった。


(敵の武器の間合いは約2m。対してこちらは半分程度。敵の斬撃を見切る事は叶わず、正面から剣を振るえばカウンターは必至・・・ならば。)


正眼に構えたジャンクに対しシャルシスが突撃する。敵の攻撃に対してカウンターをする余裕が無い戦いであれば、自身から攻撃を仕掛けなければならないのは勝機が無いのは当然と判断したためである。


「さあ来い!お前の本気を見せてみろ!」


ジャンクが叫ぶ。そのままシャルシスが突撃し攻撃しようならば、倍のリーチを持った大剣に斬られるのは自明であり、転生した肉体ではその攻撃を避けきるのは困難だろう。それをシャルシスが理解していない筈も無く、大剣の間合いに入る直前、腰に着けていた物体を左手で数本敵に投げつけていた。


「……!ナイフか!」


首、胴、両手両足に事前に準備していたスローイングナイフを投げつける。シャルシスの突撃を剣で受け止めようならば何れかのナイフが当たるような配置は、数々の戦いを積んだ経験が為せるものだった。ナイフが当たろうとも鎧を着たジャンクに与える傷など無いが、この試験においては致命的な打撃となる。

「考えたな小僧。確かにこれは致命的なナイフの配置だ。・・・だがな!」

ジャンクが構えを変える。我流のその構えは、故にその男の力を最大限発揮するものであった。


「理に叶っている程度の攻撃で俺に勝てるなどと思うな。この程度の修羅場、幾らでも超えてきたわ!」


そう言い放ちジャンクがその大剣を振るう。先程の斬撃の速度とは比べ物にならない、その常軌を逸したような剣閃は飛んできたナイフの尽くを打ち払い、尚もシャルシスを迎え撃とうと躍動していた。両者の間合いは1m80cm程。後方には微弱な魔弾を準備していたが、加速しているシャルシスとは間がある為彼を斬り伏せた後に迎撃する余裕があるだろう。シャルシスが渾身の力で地を蹴るがその距離を詰めることは叶わず、不可避の大剣の横振りが彼を襲う。



「ーーーーーー()()()。」

シャルシスが大剣に対して剣を振るう。その剣撃は大剣を止めるものではなく、迫る大剣の側面を叩き、加速していた体はその衝撃により()()()()()

「なッーーーーー!?」

元々前方に加速していたベクトルが乗りシャルシスはジャンクの体を空中で通り越す。その瞬間にシャルシスは残りのナイフを投擲し立体的な包囲網を描き、ジャンクの後方に着地と同時に長剣の少年は迷いなく突撃する。あらかじめ放っていた魔弾を弾かなければならないジャンクは対応が遅れ、それは決定的なものとなった。




「ーーーーーー見事。」

二人の剣士の戦いは、こうして幕を閉じた。

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