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2話〜勇者のお勉強(4/7)

 エンジュさんはノリノリだった。この教会で教師としての格好をして、資料を見せてくれる。まるで読めないと、言いにくかったけどうにか言ったら、それぞれの資料を説明してくれた。

 さっき運び込まれたのは、エンジュさんのコレクションである勇者にまつわる資料が8割、勇者の死後からの歴史書が1割、現在の状況を説明する資料が6分、3分が勇者復活の魔法についてで、残りの1分は勇者を想ってエンジュさんが書いた詩だった。詩に関しては誤って持ってきてしまったらしく、即回収され、自室に置きに行ってしまった。


 しばらく、待つ。

 まもなく、エンジュさんは何事もなかった顔して帰ってきた。


 気を取り直して、講義が始まる。先生、もといエンジュさんの顔はさっきよりも少しばかり赤い。うん、ラブレター混ざってたみたいなものですものね。ドンマイです。


「えっと、それで、勇者様。どういうことをお教え致しましょうか?」


 教育範囲の選択を投げて寄越された。

 なら僕は、全部と言うしかない。何も知らないから。


「僕は、何を知らないのかもわからないから、えっと、エンジュさんが知り得る限りを、お、お願いします」


 まだどもるなぁと思ったけど無視します。します。

 いいよ、僕前世、って言っていいのかわからないけど、あっちでは親と友達二人くらいとしか話さなかったんだから。初対面の人と話せてるだけ進歩です。がっつり好意向けられてるからですけど。


「わかりました。ではまず、その、ゆ、勇者様の……ゆ、勇者様のお話をさせて頂きます!」


 不意に照れられた。


「お、お願いひます」


 照れられて、僕も照れる。そして噛んだ。


 エンジュさんは、それはもう、熱く語ってくれた。情感込めて、時には一人何役と演じ分け、時に感想を述べ、まさかの多数の文献を統合しての独自解釈とかまで絡めつつ、それはもう熱狂的に語ってくれた。

 なかなか楽しかった。


 この身体の主、いわゆる伝説の勇者の、その伝説というのは、それほど難解なものではなかった。

 どこどこで生まれどこどこで育ったとかの固有名詞は頭に入ってこなかったけど、要するに、大冒険をして英雄と呼ばれた男がいて、冒険の中で様々な武器や技能、魔法、あとなんか力を身につけて、それらを駆使して魔王を討った。と、そういうお話だった。あと勇者の名前はアンスと言うらしい。

 …….そういえば、初めて名前知りました。


 好き勝手に旅して勝手に強くなって、魔王が現れたから頼まれて倒したと。凄いなこの身体の人!


「勇者様が魔王を倒すまでについては、ざっとこのくらいですが……過不足とか、誤りとか、ありま……すか? も、申し訳ございません、私、熱くなってしまって!」


 途中質問しようとしたら話遮るなと怒られましたが気にしてませんので大丈夫です。


「あ、いえ、はい。大丈夫です、助かりました。過不足は……すみません、そこまで思い出せないので、ひとまずは、言われた通りに覚えておきます」


 そう言うと、何故かエンジュさんは激しく動揺した。


「え、あの、わ、私は、調べたものだけで、誤りとか、そんな」


 照れてる、と言う、感じじゃない。過去の文献や物語から解釈したほんとかどうかわからない知識を僕が鵜呑みにしちゃったから、抵抗があるのかな。あー、なんかあったら責任問題……になるのかはわからないけど、うん、なんかあったら大変ですよね。


 などと、人ごとっぽく理解した。

 でも知識ないからどうしようもないでふのね。よし、話変えよう。


「あれ。でも、だとすると、なんで僕こんなに若いんですか……結構色々してて、良い歳、ですよね?」


 僕の身体は、どう見ても二十歳にさえ見えない。数々の冒険も、魔王の討伐も、幾ら何でも無理そうだ。


「あ、あぁ、そうですね。ではここで簡単に、術の内容は細かくはわからないんですが、勇者様の復活についてお話しします」

「お願いします」


 聞くと、次の手順だった。


 1.勇者の身体を手に入れる(封印済みのミイラ)

 2.封印を解除する

 3.肉体の若返りを行なう

 4.間違う(思った以上に若返る)

 5.魂を呼び戻す

 6.動いたー!


「あー……若いの、手違いの所為なんですね」

「申し訳ござ「やめて土下座しないで」


 颯爽と床に頭を付けようとするのを止める。

 でも正確には5番目も失敗してるんですよね。でも呪いの人はもう亡いって言ってたし、時間が経ち過ぎてたのかな。


「なんとなくわかりました」

「お役に立てて光栄です…….もう死んでも構いません」

「超構うので生きててください」


 この人は勇者フリーク過ぎる。

 勇者と、復活については、なんとなく把握できた。


 でも。なんか勇者がすご過ぎて、話聞いてるだけだと魔王がパッとしなかった。


「あの、魔王についても、聞いていいですか?」

「魔王、ですか?」


 エンジュさんは眉間に皺を寄せた。聞いちゃダメだった?


「今のことならわかるのですが……昔のことだと、いくつも国を滅ぼしたとかはあるのですけど、それ以上のことは、その、あまり」


 そんなに資料が残ってないのか、単純にエンジュさんが勇者以外には興味がないのか。後者な気がする。


「そちらは、ロムロス様が詳しいかと思いますので、後ほど聞いておきます」

「あー、はい、お願いします」


 僕が直接聞いた方が早いと思ったけど、お任せすることにしよう。記憶ないとか、エンジュさんしか知らないわけだし。


 あとは今日までの歴史と現状か。もう結構頭いっぱいいっぱいにってきたなぁ……

 あとお腹もすいてきた。

 ……今何時なんだろ。


「あ。ところで、勇者様。そろそろ日も暮れてきて、夕飯時なのですが、どう致しますか?」

「……どう、って?」

「あ、その、好きな物をご用意とかは、難しいのですけど、あ、極力努力はしますが! あとは、みんなと食べるか、一人で食べるか、と」


 あー。なるほど。えっと、どうしようかな。

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