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2話〜勇者のお勉強(2/7)

 目の前でエンジュさんが倒れた後、僕は別の男性に連れられ、僕が寝泊まりするという部屋に通された。

 廊下も壁も、基本的に石と木を組み合わせて建てられていて、要塞みたいだなと思ったけれど、古くからある寺院なのだそうな。石の廊下を靴で歩くと、ひんやりとしていて、少し寒い。日の光が差さないから、廊下には転々と蝋燭が立っている。燃費悪そう。


 その人にエンジュさんが何故倒れたのかと聞いたところ、エンジュさんは特に勇者に憧れていて、名前を呼ばれたショックで感極まって意識を失ったのではないかと言われた。


 中身が本物じゃないので、申し訳なくて胃が痛い。


 エンジュさんは体力もあり丈夫だとのことで、すぐ起き上がりまた来ますよと言われたので、安心していいのか、むしろ心配した方がいいのか。

 エンジュさんが来るまでは、その男性の方が戸の前に待機しているとのことで、申し訳ない気持ちで一杯になった。エンジュさん来たらエンジュさんがそこに待機するのかと思うと更に申し訳ない。


 案内してくれた人は特に大きな傷も見当たらなかったので、やはりエンジュさんのあの傷が少し気になった。それを聞こうかなと思ったけど、他人に聞いて良い話題かわからなかったので、やめておくことにした。


 木で出来た戸を開けて中に入ると、中はやはり石の床だった。ワンルーム。実家暮らしだったから、なんか少し胸踊る。部屋の中には個人用の木の机と、柔らかそうなベッド、あと鏡台。質素。

 トイレとかお風呂はなさそうだから、共用かなぁ。仕方ないか……お風呂あるのかな。大好きなんだけど。


 部屋を見渡すと、大きな窓があった。窓というか、そこだけ石を組んでいない様で、むしろ穴という方が適切に思える。

 窓の少し上に木の板が固定してあるので、窓を閉める時にはこれを閉じるのだろう。すごく寒そう。

 窓から外を見る。すると、青空と山と、あと畑が見えた。都会ではないことがわかる。


「そんなに、変わらない、気がする。空気は美味しい気がする」


 窓の外に大きく一息吐いて、吸って、窓から離れて部屋の椅子に座る。自分の手を見る。

 少なくとも、見たことのない手。


「……鏡を見るのは、少し、勇気がいるな」


 顔も、何もかも……身長的にはそんな違和感ないけど、恐らくは年齢すらも全然違う。怖いな。僕はもう、僕じゃない。いや、もう僕なんだけど……そうだった。


 鏡の前に行き、チラッと覗く。そしてすぐ目を逸らす。なかなか踏ん切りがつかない。


 でも、もう僕なんだ。この身体は、もう僕でしかないんだ。本来の勇者の心はもう亡くなったって言ってたし。

 覚悟を決める。もう、僕が勇者なのだと。煙の人……この身体の呪いに選ばれたのだと。

 そういえば必勝の呪いってなんなんだろ。


 決まり切らない覚悟のまま、えいやと鏡の前に躍り出る。

 すると意外に、年齢は同じくらいに見えた。


「若っ!?」


 若作りなのか、本当に若いのか。本当に若いなら、すごいな勇者!

 感嘆してから、改めて身体や顔を見る。顔はやはり、別人だ。似てたりはしなかった。そしてなんというか、イケメンという感じの顔だった。なんか整形した気持ちになる。

 服は簡素で、そっちは特に勇者らしいとかない。鎧とか剣とか、盾とか、それらしいものは身に付けてないっぽい。ここに案内してくれた人と大差ない。


「うーん。結構普通だ。顔良いだけだ」


 それだけで充分に思えなくもないけど。


 腕や足は引き締まっている。痩せても見えないし、無駄に太ったりもしていない。当然か。勇者だものね。

 服は紐で結ぶタイプの様で、すぐに脱げそうだった。それなので、脱いで鏡に身体を映してみる。靴を履いた下着姿で、なんか変。


「わぁ。細マッチョって感じ。でもそこまで筋肉なさそう」


 しかしこれで本当に冒険できるのだろうか。


「あ」


 思い出した。魔法が使えるって言われてた。それに惹かれて勇者になったんだった。えっと。


 わくわくしながら、使い方を考える。そして、さっぱりわからないことに気付く。


「……どう使うの?」


 使い方も、そもそもどういうものなのかも、僕はまるで知らなかった。そうだよ、僕の知識と記憶しかないんだ。習ったりしなきゃじゃないか。


「すぐには使えないのかー……」


 少しがっかり。


 そんなことをしてたら、外から話し声が聞こえてきた。少し騒がしい。

 エンジュさんが来たのかな?

 そう思ってから、自分が下着姿なのに気付いた。まずい、着なきゃ。


 そう思った直後に、戸が開く。


「失礼します、勇者様! 申し訳」

「あ、少し待って」


 制止をするが既に遅く、バッチリ見られた。

 そして、前のめりに戸を開けたエンジュさんは、戸を開けた勢いのままパタンとその場に倒れ込んだ。また気絶した。


「え、エンジュさん!? エンジュさん!?」


 今のは嬉しかったの!? それとも男の肌を見たからとかそういう理由!?


 気絶してしまったエンジュさんを、僕はどうにかベッドに運んだ。

 話を聞くのは、いつになるんだろう……

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