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3話〜勇者の呪い(11/11)

 ロムロスさんはベッドに横になっていた。僕の復活の儀を執り行ったのがロムロスさんで、その際に大量の力を消耗してしまい、まだ回復しきっていないのだという。

 避難の時も、身体が動かせないから避難の邪魔になると、この部屋に籠もっていたのだという。最終的には、何人かがこの部屋でロムロスさんを守ろうとして、ここで銃を構えていたそうだ。


「必勝の呪い、ですか」

「はい」


 部屋に入ると、まずラインさんが簡単に挨拶を済ませて、それからエンジュさんが僕の呪いについてをロムロスさんに訊ね始めた。


「切った野菜も美味しくなっていた、と」

「はい」


 それはエンジュさんの高すぎる信仰心の所為だと思います。

 エンジュさんの話を聞いてから、ロムロスさんは僕の方を向いて、軽く頭を下げた。


「アンス様、その呪いをちょっと見せて頂いてもよろしいですか?」

「あ、はい。どうぞ。お願いします」


 出してる自覚なんてまるでないので、確認を取られると少し戸惑ってしまう。


「では、失礼して」


 そう言うと、ロムロスさんは目を閉じた。閉じて見えるみたい。なんか、第三の目って感じで、憧れる。


「えっと……何か、見えますか?」

「私の力では、全体的に、という風には見えませんが……確かにアンス様の周囲に気配を感じますね」

「気配ですか?」


 見えてるというか、感じ取っている様子。ますます第三の目って感じ。

 それ僕も使えるようになったりするのかな。習得したいな、そういうの。


「アンス様」


 そんなことで少し興奮していると、ロムロスさんがゆっくりと目を開いて、僕の名を呼んだ。ハッとして、関係ないこと考えて楽しんでいたので、思わず少し反省する。


「は、はい!」

「アンス様はこれを、元々の勇者様から呪いだと聞かされたのですね」

「あ、はい」

「ふむ」


 すると、また目を閉じてしまった。


「私には、これが呪いと言っていいのかはわかりません」

「そうなん、ですか?」


 呪いってどういうものなんだろう。何が呪いで何が呪いじゃないんだろう。定義が少し気になってくる。魔法とはどう違うんだろう。


「アンス様。この呪いの影響を感じたことはありますか?」


 呪いの影響……身体が動かないとか、力が使えないとか、ダメージを受けるとか、そういうイメージしかない。


「いえ、僕は特には」


 そう答えると、ロムロスさんは少し考えて、言葉を変える。


「運が良かった、というようなことは」


 運が良かった……か。


「それも特に……特に? ……あ、あぁ!」


 思い付いて、手を叩く。


「なんかありましたか?」

「そういえば、グリフォ……魔獣に襲われた時、なんか、僕を襲う寸前で硬直していた様な気がします! 不自然に!」

「ふむふむ」


 襲いかかってくる時、確かにあいつは、なんか、固まっていた気がする。


「あぁ、さっきのやつのことだな。そういや、アン様が地面から急に出てきたアレはなんだったんで? あれもその運の一種なんですかね?」

「あぁ、いやぁ、あれは落とし穴に……あ、いやいや。そうか。そういえば、なんか吹っ飛ばされて穴に落ちて、通り抜けたらラインさんと会いましたね」


 よく考えてみれば、吹っ飛ばされて穴に落ちて穴通って人に会うって、なんかこう、仕組まれてる感がとても強い。ピタゴラなスイッチみたい。


「なるほど。てぇことは、あれか、俺が受け取りに行った武器が行ったらもう出来てて、とんぼ返りしてきたことも、その一環になったりするのかねぇ?」


 言いながらニヤリと笑った。けれど、それにエンジュさんが首を傾げる。


「刀はさすがに、できるまでに数週間掛かりますから違うのではないでしょうか。アンス様が復活される前に、ご遺体を血の目で見てますけど、この呪いは見えませんでしたから」


 ご遺体って言われると、なんかこう、不思議な気持ち。


「なるほど。そちらは偶然かもしれんが、もしそちらもアンス様の呪いが影響しているとなると、この呪いは、相当強力なものかも知れませんね」


 二人が話していると、そこにロムロスさんが割って入った。

 ピンとこなくて、僕も含めて三人で首を傾げる。


「と、言うと?」


 僕が訊ねると、ロムロスさんは少し難しい顔をしてから、エンジュさんの方を向いた。


「エンジュ。今、アンス様の呪いはどうなっていますか」

「あ、はい。えっと」


 答えて、眼帯を外す。


「部屋中に広がっていますね」

「俺にも影響しているのか?」

「そうですね全身を覆ってますね」

「ほう! 面白ぇ!」


 ラインさん元気だなぁ。

 ……いやでも、呪いが影響しちゃってるのっていいの? 喜んでいいの?


「例えば外はどうなってますか」

「外ですか? えっと、ちょっと待って下さい」


 返事をしながら窓へ向かい、身を乗り出して周囲を見渡した。

 なんかその姿が危なっかしくてはらはらした。


「……かなりうっすらとしてますが、この建物をくるんでいる様にも見えますが……これ以上は希薄すぎて私にも良くは見えないです」


 僕の呪いは広範囲に及んでいるのだと知った。

 歩く災厄っぽくてなんか嬉しくない。必勝って名前はなかなか素敵なのになぁ。


「なるほど。魔獣に襲われ傷を負わなかったことや、ラインと偶然出会ったこと……確証があるわけではないですが、その名の通り、負けない様にものごとを動かしてしまう呪いなのかもしれませんね」

「ものごとを……?」


 それはつまり、僕が勝つように、色々なものに影響するってこと、なのかな?


「今まで解呪したどの呪いとも似ていないので判別はつきませんが、話を聞く限り、そして前の勇者様が仰ったその名を考えると、恐らくは、勝つ結果を生むように周囲のものに影響を与えるのではないかと」


 わぁ。便利っぽい!

 便利っぽいけど、物凄く迷惑っぽい!


「……すごい呪いだな、そいつぁ」


 あんぐりと、ラインさんも驚いていた。

 あ……伝説の勇者がそんな呪いのお陰で勝ってたと思って、失望しちゃったりするかな……僕のことじゃないけど、それはちょっと心苦しいな。


「さすが、さすが勇者様だぜ……そんな加護まで身につけてるなんてよ!」


 あ、うん。杞憂だった。

 便利過ぎて少し怖そうだけど、うん、なんだ、だったら僕、戦って勝ったりできるかもしれないんだね。その都度誰かに助けられるかもしれないわけだけど。確証があるわけじゃないからむやみに頼っちゃダメかも知れないけど、僕、この呪いに守られてる感じなんだなぁ。


 僕はホッとした。けれど、ロムロスさんの表情は少しばかり重い。


「どうし、ました?」

「悪い呪いではないと思います……ただ、一つ気になることがあります」

「気になること、ですか?」


 ロムロスさんは頷き、少し躊躇してから、口を開いた。


「この呪いが本当に、必ず勝つようにしてしまうものだとしたら、もしアンス様が戦うことを諦めたり、負けようとした場合……果たしてどの様に作用してしまうのか」


 何を言いたいのかわからなくて、僕は首を傾げた。


「えっと?」

「簡単に申しますと、どんな偶然でも覆せない実力の差がある相手と戦う場合や、アンス様がご自分の意思で負けようとした場合に、あなた様の呪いはどの様に作用するか見当が付きません。ですのでどうか、不用意に戦いを挑まぬようお気をつけ下さい」


 静かに、諭すように、ロムロスさんは重く僕に告げた。


 そんなこと言われても、それってつまり、僕は、どうすればいいんだろう。

 つまり、僕が強くなる前にすごく強い魔王に挑まれたら、何かすごいことが起こっちゃうかも、って話なのかな? でも結局は勝てるから、問題ないような。


 僕には、ロムロスさんの危惧がわからなかった。けれど、この呪いをあてにして魔王を倒すというのは、避けた方が良さそうだと言うことは、ロムロスさんの雰囲気からなんとなくわかった。

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